本研究は、メンタルタスク実行時の脳波を複数の電極で測定し、電極間の相関係数を要素に持つ特徴ベクトルのテンプレートを用いて、ユークリッド距離によるパターンマッチング法で判別するシステムの構築を2年間に渡って行った。その際に、高周波帯域(γ波帯域)の脳波とバイノーラル・ビート音に着目して、耐雑音性、判別率の向上および電極数の低減に留意した。 初年度に、前頭葉、頭頂葉、および後頭葉の8か所に電極を配置してシールドルーム内で測定した脳波のγ波帯域を用いることで、低周波帯域(α、β帯域)および、全周波数帯域よりも高い認識率を得た。しかし、タスク実行時の特徴ベクトルが、大きく異なる場合があることが判明した。 そこで、最終年度に、タスク実行後の特徴ベクトルのグラフをモニタ上にリアルタイムで被験者にフィードバックしてグラフが重なるように訓練出来るシステムを構築すると、判別率が向上した。しかし、日を改めてテンプレートを作成すると前回とは形状が異なる場合が生じ、判別をする機会ごとにテンプレートを作成する必要があることが判明した。 次に、各タスクの特徴ベクトルの要素の差の有意性を多重比較検定法で検定し、有意である特徴ベクトルの要素を選んで判定した結果、判別率の向上が見られた。これにより、電極数を減らして被験者への負担を軽減できる可能性が示唆された。また、γ波帯域の脳波およびアクティブ電極を使用することにより、通常環境の室内でも同様の結果が得られた。 バイノーラル・ビート音を聞いた時の各電極における脳波のα、β、γ波各帯域のパワー比の、開眼リラックス時の各帯域のパワー比に対する増減を調査した結果、α波帯域のパワーは減少し、β、γ波帯域のパワーは増加して優勢となり、脳波同調現象が生じることを確認した。しかし、γ波帯域の脳波が優勢な状態でメンタルタスクを実行したが、認識率の向上にはつながらなかった。
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