研究課題/領域番号 |
15K12615
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
和田 真 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (20407331)
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研究分担者 |
大山 潤爾 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 人間情報研究部門, 主任研究員 (00635295)
日高 聡太 立教大学, 現代心理学部, 准教授 (40581161)
福井 隆雄 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 流動研究員 (80447036)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 視線 / 顔認知 / 発達支援 / 自閉スペクトラム症 |
研究実績の概要 |
本研究では、自閉症者の視線移動・視点取得の問題が社会性・コミュニケーションの障害を悪化させるという仮説のもと、自閉スペクトラム症者の視線移動パターンや視点操作について、コミュニケーション困難の原因となっている特性を抽出し、情報取得の困難等を改善することで「空気を読む」ための訓練方法を開発する。 これまでの研究で、試作的に開発したゲーム課題(「次の顔探しゲーム」)において、自閉症者では、顔画像への視線停留時間は短いものの、視線手がかりを活用できていることが判明した(発達心理学会・Psychonomic Societyにて発表)。平成28年度には、追加実験とデータ解析を進めて個人の自閉症傾向との関連を探った。その結果、ASD者(10名)と定型発達者(10名)を合わせたデータで、視線手がかりを用いた視線動作と、想像力の困難との間に有意な相関が観察された。つまり、自閉傾向の中でも想像力の困難の自覚が強いほど、視線手がかりを利用した予測的な視線移動が難しい可能性が示唆された(HIP研究会)。特性の客観的な評価のためにASD者・定型発達者の双方に対して、知能検査を実施し、比較対象として適していることを検証した。ADOS-2検査を実施し、ASD者10名すべてが自閉スペクトラムと判定されることを検証した。さらに、多感覚統合や身体像を加味した訓練を行うための基礎実験を行い、自己身体像とオキシトシン・自閉傾向との関連に関する発見を論文公表した。年度後半には、これら成果をもとに、効果検証のための試行的な訓練プログラムを検討するとともに、視線訓練後の出口戦略として表情推定を支援する福祉機器について検討を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に従って、定型発達者と自閉スペクトラム症当事者の視線行動の違いを客観的に評価するとともに、基礎となる訓練プログラムの開発を進めた。昨年度までの研究の結果、自閉スペクトラム症者では、予想に反して、視線手がかりを有効に活用できていることが判明した。この知見をもとにH28年度に、定型発達者も含めた20名のデータを再解析したところ、想像力の困難の自覚が強いほど、視線手がかりを利用した予測的な視線移動ができない可能性が示唆された。訓練効果の評価を意図して、H28年度には、リアル顔刺激(写真)を用いた自他判断課題と高精度な視線計測装置(eyelink)による予備実験も実施した。さらに、多感覚統合や身体像を加味した訓練を行うための基礎実験も実施できた。そして、これらの成果をもとに、試行的な訓練課題を策定した。H29年度には、訓練効果を検証する実験を行う。以上のように、すべての計画が予定通りとなったわけではないものの、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には、平成28年度に策定した試行的な訓練プログラム(「次の顔探しゲーム」)を、障害当事者を対象に実施し、視線行動に対する効果を検証する。具体的には、訓練前後に、訓練に用いたアニメ風のイラストとは異なる顔画像(写真)に対する視線計測を行い、目を見る傾向が汎化するか検証する。さらに、分担者である産総研の大山主任研究員の協力を得て、グラス型視線計測装置(Tobii glassなど)などにより、会話場面の視線行動が定型発達者に近づいているかを評価する。 視線行動に対する般化が見られた場合には、社会スキル・コミュニケーションに般化が見られるかを質問紙等(AQスコア等)で比較する。必要に応じて、作業療法士または心理士等による評価を実施する。 立教大学の日高准教授、首都大学東京の福井准教授(外来研究員)と議論を進めて、異種感覚統合や身体図式を加味した訓練について検討を深める。さらに研究の出口戦略として、視線訓練の効果を活かすため、視線を向けた先の人物の表情や人物推定を支援するためのウェアラブルデバイスの試作に取り組む。以上の萌芽的な研究をもとに、次年度以降、本格的な研究開発に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
訓練プログラムを、当事者の方のフィードバックを得ながら随時改良を加えていくことで、より効率的な開発を行う計画に変更した。そこで、逐次行う開発のための経費が必要となり、基金の次年度使用が必要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度にあたり、昨年度までに開発した訓練ゲームの試作(「次の顔探しゲーム」)について、効果を検証し、逐次開発にフィードバックしていく。さらに、訓練の出口戦略として、昨年度購入した視線計測が可能なヘッドマウントディスプレイおよび表情読み取りのためのチップセットを使い、表情認知の支援のための福祉機器を試作し、次の研究につなげる。研究開発のための謝金や消耗品の、残りを、旅費(約10万円)・英文校閲(約5万円)・論文投稿等(約25万円)の研究成果発表に係る経費に使用する。
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