研究実績の概要 |
申請者はこれまで、脊髄完全損傷者が長下肢装具を用いた歩行運動を行っている際の麻痺領域の神経活動と循環動態に関する研究を実施してきた(Kawashima et al. Spinal Cord 2003, 2005, Neurol Res 2008)。歩行運動中には脚への荷重印可や関節運動に伴う筋-腱からの求心性入力が脊髄に投射する結果、脳との神経連絡が完全に遮断した麻痺領域にも歩行周期に同調した筋活動が生じる。この「歩行様筋活動(locomotor-like muscle activity)」は脊髄歩行中枢の活動を反映することが知られており(Kawashima et al. 2005, 2008)、装具歩行の継続的な実施が痺領域の神経筋機能の退行抑制、歩行運動出力の維持をもたらす可能性がある。本研究では装具歩行の神経生理学的意義とリハビリテーション効果に着目し、従来型の長下肢装具の機能や構造、材質に抜本的な改変を加え、健常者の歩容に近い歩行運動を実現するための新しい装具を開発・製作することを目指して研究を展開した。 2年の開発期間内に、大腿・下腿部分のカーボン化を実現し、脊髄完全損傷者での試歩行と強度評価を終えることができた。膝屈曲・伸展機構については、試作段階を終え、動作評価を行ったが、現状では平行棒内での試歩行に留まっており、今後のさらなる開発によって、ロフストランド杖での膝関節動作の実現を目指していくこととなる。引き続きの開発を進めるにあたって、2年の開発期間内で十分に、当初の企図通りの目標を達成できる見通しを立てることができた。
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