研究実績の概要 |
ヒトは眼球湿潤に必要な数の何倍も瞬きをしている。何のために頻回に瞬きをするのか、未だに大きな謎である。本研究は瞬きの頻度の大きな個人差に着目し、その個人差を生み出す神経機構を明らかにすることで、自発性瞬目の機能的役割までも明らかにすることを目指している。瞬きの頻度は、情動や覚醒でも大きく変化することから、自律神経系の活動が瞬きの発生パターンの個体差・個人内変動に大きな影響を与えているのではないかという着想を得るに至り、本年度は、瞬きに加えて、心拍・呼吸・汗腺などの生体情報を同時に計測することで、自律神経の活動が瞬きの前後でどう変化しているかを調べる研究を行った。まず最初に、25名の被験者を対象に、映像を自然な状態で見ている時の瞬きに応じて、瞬時心拍数がどのように変化するかを調べたところ、瞬き直後の数秒間の間、一時的に心拍数が有意に増加するという現象を発見した。そこで、映像ではなく朗読音声を聞いている時や安静状態でも同様の現象を生じるかを調べたところ、やはり瞬き直後に心拍数の増加がみられたが、呼吸活動に変動は生じていなかった。さらに、暗闇の中で朗読を聴いてもらっても、同様の現象が生じることを確認した。つまり、瞬きに伴う視覚入力の変化がこのような現象を引きこしているわけではないのである。さらに、汗腺の活動も瞬き直後に上昇をしたことから、自律神経の中でも、副交感神経ではなく、交感神経の活動がこの心拍数上昇のトリガーとなていると推測される。今年度は上記の発見を英語論文にまとめて、国際誌に発表した( Nakano & kuriyama, International Journal of Psychophysiology 2017)。
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