研究課題/領域番号 |
15K12621
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 俊光 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (00250704)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 周辺視 / 視覚安定性 |
研究実績の概要 |
本研究は、視覚世界の安定性の問題への新しいアプローチとして、周辺視における劇的な運動知覚の変調現象に注目し、これらが姿勢や身体部位の空間位置にどのように影響されるかを明らかにすることを目的とする。 初年度である当該年度は、方法論の構築をめざした。まず、1.周辺視での運動知覚の変調現象につての定量化の方法として、カーブボール錯視 (Shapiro et al., 2010)と知られている、周辺視での顕著な視効果が現れる視知覚現象を応用した方法を開発した。カーブボール錯視とは、画面上をdiskが垂直に等速で落下するが、その内側に描かれた縞が左(右)方向に動く刺激で、これを中心視で見ると単にdiskが垂直に落下するが、周辺視では、落下の途中で大きく左(右)にカーブして知覚される。縞の動きが、diskの落下方向と同じ(逆)であれば、より速(遅)く落下する。globalな動きへのlocalな動きの統合が周辺視で生じるためと思われる。(1)我々が予備実験で見出した、落下するdiskの回りに枠を提示すると、カーブ効果が減弱する現象に注目し、globalな動きへのlocalな動きの統合の程度を、枠の大きさ、コントラスト、提示タイミングを変えることで調べる実験系を構築した。(2)周辺視での時間知覚については、disk内の縞の動きの方向が、disk自体の動きの方向と同じ(逆)であれば、diskが実際よりも速く(遅く)動くように知覚する現象に注目し、localな動きとglobalの動きの関係が、周辺視での主観的時間知覚への影響の程度を、別途提示した音の長さを参照することで、定量的に測る実験系を構築した。 次いで、2.周辺視野の知覚に影響を与える姿勢の影響を調べるため、耳側半月状単眼視野に、種々の視覚刺激を提示した際の姿勢の応答、あるいは順応後の効果を調べる実験系を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的を達成するための、1.周辺視での運動知覚の変調現象についての定量化のための実験系の構築と、2.周辺視野の知覚に影響を与える姿勢の影響を調べるため実験系の構築は、それぞれ必要最小限ではあるが、形づけることができたため、基本的には順調な進展と思われる。ただし、当初の計画に挙げていた、前庭器官の弱電流刺激による姿勢の変調につては、多少侵襲的であることもあり、もう少し慎重に検討する必要があると判断し、先送りにした点と、一般被験者の計測をまだ実施していない点で、全体としてやや遅れていると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に開発した方法を組み合わせ、周辺視における劇的な視知覚の変調現象が、姿勢や身体部位の空間位置に影響されるという仮説を検証する心理物理実験を行う。 また、その後は、fMRIを用いた周辺視における運動知覚の神経基盤研究に進み、特に前述の中で、1.周辺視での時間知覚、および2.周辺視における運動知覚への枠の効果の脳活動に注目する。1.では、落下するdisk内の縞の動きが、落下の向きと{順、逆、静止}の条件を{周辺視、中心視}の場合の脳活動を計測し、同一の落下距離でも知覚する時間長が異なる場合の脳内メカニズムを考察する。2.は、1.の実験と類似ではあるが、{枠あり、枠なし}の効果、あるいは、切り替わり時の効果を調べることにより、空間座標系と動きの知覚との脳活動領域間のダイナミクスを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、被験者の姿勢のモニター用に、モーションキャプチャ装置(100万円)を計上したが、先行研究の検討により、本研究においての姿勢のモニターの目的では、体重の移動をモニターすることでも十分であることが知れたため、オーバースペックで高価なモーションキャプチャ装置の購入を止め、非常に安価なゲーム用の体重移動のモニター装置(1万円)に変更した。実際に有効に使用できることが確認できている。
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次年度使用額の使用計画 |
次に進む予定のfMRI実験では、できるだけ被験者数を多く確保したいが、被験者1人あたり施設使用料が7万円程(2時間)かかるため、当初の計画の段階では、それほど多くの人数を望めなかった。しかし、モーションキャプチャ装置を、体重移動のモニター装置に置き換えることが可能となったため、この予算を付け替えられる範囲で、fMRIの施設使用料に充てることとする。
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