研究課題/領域番号 |
15K12626
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長谷川 聖修 筑波大学, 体育系, 教授 (10147126)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 震災復興支援 / 交流促進 / 体操プログラム |
研究実績の概要 |
東日本大震災の原発事故による避難者とつくば市民の65歳以上の高齢者を対象に、新たなコミュニティづくりをねらいとして、健康体操教室を定期的(毎週1回90分)に開催し、健やかで活動的な暮らしを提供し、地域を越えて「絆」を強める体操プログラムを開発・指導した。そこで各種体操による参加者同士の交流促進の傾向を明らかにするため、「うつくしま体操教室」に参加する、中・高齢者10名(男性4名、女性6名) を対象にインタビュー調査を実施し、震災避難者の語りから、避難者支援のための体操教室のあり方について考察した。 その結果、避難者支援のための体操教室は、運動すること自体を目的とし、参加者の体力の維持・回復といった身体的ニーズを満たすことが大きな目的の一つではあるが、それと同等に、運動を手段とした心理的安寧を得る場、避難先での新しい人間関係を構築する場といった、心理的および社会的ニーズを満たす役割が明らかになった.具体的には、実施する運動プログラムは、単に体力面や身体機能面の向上のみに焦点を当てるのではなく、運動を媒介とした他者とのコミュニケーションを目的とした内容も積極的に取り入れることの重要性が示された.さらには、「運動することそのもの」の行為を大切にする、いわばプロセス重視の視点が再確認された。 今後は、より避難者のニーズに沿った体操教室展開のためには、避難者が抱える様々な想いとその背景を理解することで「被災者に寄り添う」ことができる体操教室のあり方を検討したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、各種体操実施時における運動負荷量を推定するために、心拍計(polar 社)を用いて測定し、加えて主観的運動強度(ボルグ指数)を調査し、客観的・主観的な観点から比較検討する計画であった。しかしながら、交付決定額と研究内容との兼ね合いから、測定機器の購入ができなかったため、体力面の調査を進めることは出来なかったものの、当初の質問紙による調査に加えて、福島県からの避難者を対象にインタービュー調査を実施した。これにより、参加者の教室に対する内省面での実態を明らかにすることができたことは大きな成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、高齢者が体操教室を継続するための要素として、体操教室時の交流場面に着目し、より詳細に行動記録を撮影し、プログラム内容に応じた活動の様態を分析する予定である。具体的には、高齢者も童心に戻ったように歓声が沸き起こるような運動実践場面を多方向からの複数固定カメラや指導者の胸に装着した移動カメラ等で映像と音声を記録して、活動中に自然発生した「笑い」の現象等を中心に、高齢者が運動プログラムを肯定的に捉えた場面を客観的に抽出する。こうした場面が発生する要因については、参加者の活動内容に関する内省調査・半構造化インタビュー調査等を実施して、その結果と重ね合わせながら検討する必要があると思われる。そのため、まず指導場面においては、各運動課題について「できること」を目指しつつも、結果的には「できないこと」も肯定できるような寛容な雰囲気を作ることが重要である。つまり、各種体操プログラムにおける運動課題の達成度のみでなく、取り組んだ活動のプロセスにも意義を見出し、高齢者側に寄り添った観点から、高齢者の特性に応じて、各種体操用具・世代に応じた音楽リズム・仲間との交流場面などを創意・工夫しなければならないと考える。こうした観点から、高齢者がより主体的にかつ和やかに活動を継続する実践事例を集積することが今後の課題である。こうした参加者の交流豊かな活動実態を明らかにすると共に、交流を促進するための段階的な指導内容の再構築も検討する。
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