研究課題/領域番号 |
15K12626
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長谷川 聖修 筑波大学, 体育系, 教授 (10147126)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 震災避難者 / 体操教室 / 複線径路等至性モデル |
研究実績の概要 |
2011年3月11日の東日本大震災から、早6年以上が経過する。故郷は帰還困難区域となり、新たな地域の中で暮らす避難者への支援は、様々な課題を抱えている。そこで、茨城県つくば市において、福島県からの避難者と地元住民とのコミュニケーションの促進を目的とした「う・つく(ば+ふく)しま」体操教室を定期的に開催した。体操教室は、健康の保持・増進をねらいとして、バランスよく身体を動かすことに加えて、参加者の心身の多様な交流を図ることに配慮した。そのために、参加者が気軽にコミケ-ションが取れるようにプログラムを工夫し、参加者同士で自然に「支える」「支えられる」運動課題を設定した。 平成28年度は、避難者を対象に実施したインタビュー調査によって、新たなコミュニティ形成において本体操教室が果してきた役割を明らかにした。その調査結果に基づき、避難活動において中心的な役割を担ってきたA氏に注目し、半構造化インタビューを実施し、体操教室参加に伴う心理プロセス,すなわち経験の径路を検討した。分析には「複線径路・等至性モデル,通称TEM」を用いて分析した。その結果、初めて教室に参加してから継続的な参加に至るまで,はじめは不承不承に参加していたが,地元の人とのつながりを得て,明確な目的を持って参加するようになったという心理プロセスが明らかとなった。また、それぞれの過程において,様々な社会的助勢が存在している可能性が示唆された。 さらに、これまで復興支援で取り組んできた活動概要を振り返り、体操教室を開催するに至った背景や経緯、また、実際のプログラム内容の特徴などを概説した(「たくましい心とかしこい体」-身心統合のスポーツサイエンスー・大修館書店)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、各種体力テストによる体力の変化を測定する予定であった。しかし、参加者の年齢が予想以上に高く、安全面などへの配慮をすると体力測定による定量的な評価は、復興支援を目指す体操教室の趣旨に馴染まないと判断して実施しなかった。そのかわり、定期的に教室に参加して日常的な活動を継続することを優先し、避難者へ寄り添った体操教室を実施するためにプログラム内容の検討に努め、参加者の質問紙による意識調査や半構造化インタビューに重点を置いて取り組んだ。また、体操の内容改善のPDCAサイクルについて、指導者と補助スタッフで指導前後に意見交換を行うことも実施した。さらに、すべての指導内容をビデオカメラで撮影して、配信のための動画データとして整理したため、おおむね順調に進んでいるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
ここまで継続してきた「うつくしま」体操教室は、復興支援をねらいとして新たなコミュニティづくりに果たしてきた役割が明らかになった。しかしながら、2011年の東日本大震災から6年以上が経過して、ことに帰還困難区域の避難者は、先の見通しすら立っていないのが現状である。避難者の高齢化も一層進み、こうした福島県外への避難者への支援が断ち切られ、避難者のライフスタイルも大きく変わらざるを得ない。そのため、こうした状況の変化に応じて、教室の運営やプログラム内容も柔軟に対応する必要がある。平成29年度は、最終年度でもあり、こうした経緯を踏まえながら、これまでの活動内容を動画を含めたサイトでまとめながら、情報の共有化を図っていく計画である。
|