本研究の最終年度では、小規模校で実施する剣道授業が生徒の心理的変数にどのような影響を与えるかを経年変化も踏まえて分析・検討することを目的とした。以下に本研究から得られた知見を示した。 1.CAM(達成動機を高めることに焦点を置いた授業内容)を適用した剣道授業の効果:剣道授業期間前後の比較分析から、生徒の達成動機、自己効力感に有意な上昇が認められた(1%~5%水準)。また、1回の剣道授業前後での一過性の変化では、ストレス度、抑うつ・不安、無気力が有意に低減した。また、POMS2尺度内のDD(抑うつ―落ち込み)、FI(疲労―無気力)、TA(緊張―不安)は有意に低下し、一方でVA(活気―活力)が有意に上昇した。すなわち、CAMを用いた剣道授業によって、生徒の達成動機と自己効力感は増加し、一過性の心理的効果も確認された。 2.木刀による剣道授業の効果:木刀による剣道基本技稽古法を用いた剣道授業期間前後の比較分析から、生徒の達成動機が有意に上昇することが認められた(1%~5%水準)。また、1回の剣道授業前後での一過性の変化では、ストレス度、抑うつ・不安、無気力、不機嫌・怒りが有意に低減した。また、POMS2尺度内のAH(怒り―敵意)、CB(混乱―当惑)、DD(抑うつ―落ち込み)、FI(疲労―無気力)、TA(緊張―不安)が有意に低下した。すなわち、木刀を用いた剣道授業によって、生徒の達成動機は有意に増加し、一方でネガティブな感情は低減することが判明した。 3.経年変化:前年度と今年度の2年間の経年変化分析から、CAMあるいは木刀による剣道授業のいずれであっても、前年度に比して今年度の方が達成動機、自己効力感が増加したことが確認された。すなわち、小規模校で実施した剣道授業の実施によって、生徒の心理面が長期的・短期的にも肯定的に変化し、剣道授業の心理的効果が概ね実証されたと考えられる。
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