研究課題/領域番号 |
15K12640
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
征矢 英昭 筑波大学, 体育系, 教授 (50221346)
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研究分担者 |
榎本 靖士 筑波大学, 体育系, 准教授 (90379058)
齋藤 剛 静岡福祉大学, 子ども学部, 教授 (60413259)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 長期的ストレス / 毛髪コルチゾール / オーバートレーニング / 慢性疲労 |
研究実績の概要 |
本研究は長期的ストレス指標である毛髪コルチゾールがオーバートレーニング症候群を診断する生理的指標となりうるかを明らかにすることを目的としている。 これまでの研究で、アスリートは運動習慣のない人に比べて毛髪コルチゾール濃度が高いことを見出し、高い運動量はストレスとなる可能性を示唆した (日本体力医学会(2013)で口頭発表)。さらに、横断的に陸上中長距離選手の長期的ストレスを測定したところ、毛髪コルチゾール濃度が高いアスリートの気分が低値を示し、長期的なトレーニング過多による強いストレスは気分を低下させる可能性が示唆された (日本体力医学会(2014)で口頭発表)。しかし、毛髪コルチゾール測定によって評価された長期的ストレスがパフォーマンスや長期間疲労状態の続く慢性疲労に与える影響は未だ明らかでない。そこで本年度は、陸上競技中長距離選手に対して3ヶ月間の長期的ストレスを毛髪コルチゾール濃度で評価し、長期的ストレスが3ヶ月間のパフォーマンス変化や慢性疲労と関係するか検討した。 実験期間は2015年7月から10月とし、パフォーマンスの指標として最大酸素摂取量と血液中ヘモグロビン濃度、慢性疲労に関連した血液中AST、ALT (肝機能)、CK (筋機能) を7月と10月の2回測定した。10月に毛髪を採取し、実験期間のストレスを反映する根元から3cmの部分を解析に用いた。その結果、毛髪コルチゾールと肝機能の指標である血液中のAST、ALTとの間で正の相関、筋機能指標である血液中のCKとの間で正の相関が見られた。この結果から、長期的に強いストレスは筋機能や肝機能を低下させ、慢性疲労、オーバートレーニングにつながる可能性が示唆された。今後は、縦断的に毛髪コルチゾール測定をおこない、長期的ストレスの要因とストレスの長期的ストレスが気分やパフォーマンスに及ぼす影響を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は3ヶ月の長期的ストレスと慢性疲労の関係を見ることができたが、実験対象者の怪我などによってパフォーマンスの指標である最大酸素摂取量測定ができず、長期的ストレスとパフォーマンスの関係を検討することができなかった。また、現在の毛髪コルチゾール測定法では毛髪中のコルチゾールを抽出するために毛髪サンプルを液体窒素で冷凍させ、乳鉢を用いて粉砕しているが、多数のアスリートの毛髪コルチゾール濃度の測定、フィードバックする際には現在の方法では時間がかかる。そこでより効率的に毛髪コルチゾール濃度測定をするために、ボールミルを用いた粉砕法を検討する予定だったが、この粉砕法の妥当性検討までには至らず、新たな測定法確立は平成28年度に持ちこした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は長期的ストレス指標である毛髪コルチゾールがオーバートレーニング症候群を診断する生理的指標となりうるかを明らかにすることを目的とする。これまでの研究成果として、アスリートは運動習慣のない人に比べて毛髪コルチゾール濃度が高く、高い運動量がストレスとなること、また、アスリートの高い毛髪コルチゾール濃度が気分低下と関係していることを明らかにした。平成27年度の研究成果として、陸上中長距離選手の毛髪コルチゾール濃度が慢性疲労指標と関係していることも明らかとなり、毛髪コルチゾールがオーバートレーニング症候群と関係している可能性が示唆された。しかし、これまでは横断的な測定であり、長期的ストレスの蓄積が気分の低下や慢性疲労を引き起こすかは明らかにされていない。そこで、平成28年度は陸上中長距離選手の回復期、トレーニング期、試合期にそれぞれ毛髪コルチゾール濃度や持久性パフォーマンス、気分、血液中の慢性疲労指標の測定をおこない、長期的ストレスの蓄積による毛髪コルチゾール濃度増加が気分や慢性疲労指標、持久性パフォーマンスに与える影響を縦断的に検討する。さらに、測定期間の運動量を記録し、長期的ストレスの蓄積の要因として、トレーニング量が関与するか検討する。この測定の際、より効率的に毛髪コルチゾール濃度測定をするために、平成27年度に実施できなかった粉砕方法の検討をおこなう。従来の液体窒素による乳鉢での粉砕法とボールミルを使った粉砕法での測定精度を比較し、測定方法の妥当性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたオーバートレーニングに関する実験を平成28年度に持ち越したため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度として、平成27年度から持ち越した毛髪コルチゾール測定法確立実験のための消耗品の購入ならびに、成果発表の旅費の一部に充てる予定である。
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