本研究では,慣性センサを利用することによって,多体系である人体の高速スウィング動作の動力学的な分析を,モーションキャプチャーやハイスピードカメラのような金銭的あるいは時間的に高価なシステムを用いることなく,実現可能なシステムの開発を目的としている.複数の慣性センサを生体に直接取り付ける際,骨格に貼付することはできず,生体表面に慣性センサを貼付することになる.ここで,生体表面では,軟組織である筋肉,脂肪や皮膚の揺動の影響が大きく,その影響を考慮する必要が生じる.昨年度の研究では,ローパスフィルタを利用して揺動成分を低減し,ある程度のメカニズムを定量化することを可能としている.しかし,この低減方法では,慣性センサの取り付け位置の特性の影響を考慮するまでには至っていない.そこで,取り付け部の特性を考慮して,本システムの精度向上をねらいとして,まずランニング中の慣性センサの骨格モデルに対する揺動を,モーションキャプチャーを用いて定量化した.下胴,大腿,下腿および足部の各セグメントに慣性センサを取り付けて,トレッドミル上のランニング動作における慣性センサの揺動を計測した.その結果,大腿および下腿においては,長軸まわりの揺動が生じやすく,足部セグメントにおいては,シューズのアッパー部に取り付けたため,靴紐などの変形の影響を受けやすいものであることがわかった.このような慣性センサの揺動は,前年度までに考案した各慣性センサの初期姿勢推定に対して誤差を生じさせることから,初期姿勢パラメータの推定に対して外乱となる.そこで,計測したこれらのデータを用いて,揺動する慣性センサの出力から,揺動の少ない骨格モデル部の運動を推定することが必要となり,その手法について検討を行った.
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