研究課題/領域番号 |
15K12649
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
今中 國泰 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 教授 (90100891)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 予測判断 / 表象的慣性 / RM / 熟練者 / テコンドー |
研究実績の概要 |
移動標的の捕捉・打撃等を伴う競技の熟練者は卓越した予測判断能力を有している。彼らの卓越した予測判断は、一般的には熟練に基づく優れた認知判断によると理解されているが、彼らが移動視標を見るとき、実は数十~百数十ミリ秒将来の状況が展望的に見えている(表象的慣性)可能性がある。本研究では、移動視標に対する競技熟練者の予測判断が、単に認知的予測に優れているからなのか、あるいは将来が見えるという顕著な表象的慣性によるものなのかについて実験的に検討した。 実験参加者にテコンドー選手と一般学生各5名を用いた(実験1)。下肢によるハイキック・ミドルキック動画(60Hz)を用い、キック開始からインパクトまでのいずれかの時点で動画を視覚的に遮断し、ハイキックかミドルキックかを回答させ(予測判断課題)、正答率75%となるフレームを予測判断閾値とした。続いて、予測判断課題と同じ動画刺激を用い、予測判断閾値におけるRMを測定した。RM測定では、予測判断閾値フレームまでの動画呈示後、巻き戻し・先送りの何れかのフレームから動画再生を行い、動画が不連続だったか切れ目なく連続的だったかを回答させ、連続的に見える再生フレームをRMサイズとした。 実験1の結果、熟練者の予測判断は早くRMは+1、一般学生では予測判断は遅くRMは+3フレームであった。また予測判断閾値とRMの相関は熟練者で-0.8、一般学生ではほぼ0を示し、熟練者では大きいRMの者ほど予測判断が早いことがわかった。実験2では実験参加者数を20名とし120Hz動画を用いた。その結果、予測判断閾値とRMサイズは実験1と類似する結果であったが、予測判断とRMの相関は熟練者で+0.5程度(初心者で0)となり、大きいRMの者ほど予測判断が遅いという、実験1とは逆の傾向を示す結果が得られた。 これらの結果を踏まえ、今後いくつかの要因を操作して追実験を重ね、熟練者と未経験者の予測判断、RMを比較検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験の準備段階では、複数のテコンドー熟練者を用い、左右下肢のハイキック・ミドルキックを10試技実施させ、それらをビデオ撮影して動画刺激を作成した。これらの動画刺激のランダム呈示を用い、予測判断課題、RM課題の実験プログラムを作成した。予備実験によりそれらの妥当性を検討したが、通常得られるRMサイズとは大きく異なる結果が得られ、RM測定に不備があることが判明した。そこで、RM測定方法の改良を試み、予備実験を重ねた結果、妥当性のあるRM測定が可能となった。 その確立された方法により実験1、実験2を計画し、テコンドー選手と一般学生を対象とする実験を実施した。それらの実験から熟練者の予測判断とRM特性がある程度明らかとなった。しかし、実験1、2では一致しない結果も得られ、今後の検討課題が明確になった。実験1、2の結果は論文としてまとめ、国際誌に投稿する予定である。 以上の経過から、おおむね予定通りに実験研究が進んでいるものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の実験結果を論文にまとめ国際誌に投稿するとともに、今後さらに以下の狙いによる追実験を実施する。(1)一般学生に熟練者と同じ視線行動、つまり攻撃者の顔を凝視する条件下でこれまでの実験を再度実施し、その結果が視線行動によるものか否かを検討し、さらに(2)被験者数を増やし、これまでの実験結果の妥当性、再現性を検討する。また(3)予測判断閾値前後の異なるフレーム位置におけるRM測定を行い、熟練者と未経験者の予測判断特性、RMサイズ、さらに予測判断とRMサイズの関連性等を比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の実施にあたり、実験被験者としてのテコンドー熟練者のリクルートが当初計画より若干少なくなり、それに伴い実験補助者の従事日数の減少、実験参加者の謝金の減少により、当初よりも経費が少なくなったことが次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、平成27年度実施した実験の補足追実験のために使用する。なお、テコンドー熟練者のリクルートについては、本学からの参加者のみならず、近隣の他大学からの実験参加者をリクルートする計画である。
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