研究実績の概要 |
移動標的の捕捉や打撃を伴う競技熟練者は優れた予測判断能力を有している。その背景には、彼らが移動視標を見るとき、実は数十~百数十ミリ秒将来の状況が展望的に見えている(表象的慣性Representational Momentum, RM)可能性がある。本研究では、移動視標に対する競技熟練者の予測判断と将来を見る機能RMの関連性を検討した。
実験1では、テコンドー選手と一般学生各5名を用い、(1)ハイ・ミドルキック動画(60Hz)を用いキック開始~インパクト間の任意時点で視覚遮断し、ハイキックかミドルキックかを判断させ、正答率75%となる時点を予測判断閾値とした。(2)さらにその予測判断閾値におけるRMを測定した。予測判断閾値時点までの動画呈示後、巻き戻し・先送りフレームから再生し、巻き戻しまたは先送りフレームのどちらからの再生だったかを回答させ、正答率50%となる時点をRMサイズとした。その結果、熟練者の予測判断は一般学生より有意に早く、RMは熟練者より一般学生の方が有意に大きかった(いずれも負のRM))。予測判断閾値とRMの相関は熟練者で-0.8、一般学生ではほぼ0を示し、熟練者では大きいRMの者ほど予測判断が早かった。 実験2では被験者数20名に対し120Hz動画を用いた異同判断実験を行ったところ、熟練者のRMは+1、一般学生は+3フレームと熟練者の方が小さく、予測判断とRMの相関は熟練者+0.5、初心者で0となり、RMと予測判断の関連性は認められなかった。
実験1、2では、回答方法を「巻き戻し・先送り」ではなく「異同判断」でも実施したが、巻き戻し・先送り判断のRMは負(過去しか見えない)、異同判断は正のRMが得られた。さらに30-40名に対して追実験を行ったところ、回答方法により確かに正負のRMが得られることが再現された。現在、その原因を探る実験を継続実施している。
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