経頭蓋直流電流刺激を用いて非侵襲的に皮質運動野の興奮性を修飾するニューロモデュレーションが運動疾患のある患者の日常生活動作や健常者の最大筋力を向上させることは明らかにされている。しかし、より動的で複雑なスポーツの技能向上にニューロモデュレーションを用いた研究はほとんどなく、その応用の可能性は明確にされていない。そこで、本研究の目的は、経頭蓋直流電流刺激によるニューロモデュレーションを実際にスポーツの練習に用いて、スポーツパフォーマンスに及ぼす影響を検証し、実際のスポーツにおける新たな練習法の開発へと繋げることである。 今年度は、前年度に実証したラケットを操作する上肢領域の興奮性を修飾可能な刺激を用いてニューロモデュレーションを練習前に引き起こし、練習による運動技能向上に対する効果を検証した。卓球の初心者である被験者はラケットを操作する上肢の筋を制御する脳部位(運動領域、7×5cm)に、陽極刺激、陰極刺激および疑似刺激の経頭蓋直流電流刺激(1.5mA、15分間)をそれぞれ与えられ、その後に卓球台上よりボールフィードマシンから出されるボールをフォアハンドストロークで卓球台上の的(30×30cm)を狙って打つ練習(30球×3セット)を行った。この刺激および練習の前後に練習と同様の運動課題(30球)を行い、その運動パフォーマンスの変化を解析した。その結果、陽極および陰極刺激後において、運動の正確性(的への的中率)は有意に向上したが、打球速度には変化は見られなかった。一方、疑似刺激後には運動パフォーマンスに変化は認められなかった。 以上より、経頭蓋直流電流刺激によるニューロモデュレーションによって、練習の効果が向上し、運動パフォーマンスが大きく向上する可能性が示唆された。しかしながら、経頭蓋直流電流刺激の刺激方法に関しては、更なる検討が必要であると考えられた。
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