研究課題/領域番号 |
15K12655
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
寒川 恒夫 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (70179373)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 動物スポーツ / 闘牛 / 闘犬 / 馬スポーツ憲章 |
研究実績の概要 |
28年度は国内については沖縄県と北海道、国外についてはタイ(バンコク)、韓国(ソウル)、香港、台湾(台北)、中国(洛陽、ウルムチ)において動物スポーツの調査・データ収集をおこなった。沖縄では闘牛、北海道ではばんえい競馬を対象とした。台湾では、国立台湾大学内に設けられた台湾原住民族図書資料センターを中心に台湾先住民の伝統的動物スポーツと動物観念の変容情報を、香港では香港中文大学にて香港租界時代の動物スポーツのデータを、また韓国ではソウル大学と中央大学において闘牛、闘犬を中心に、中国では洛陽師範大学にて歴史史料と考古学的画像石遺物にあらわれた中国の動物スポーツのデータを、ウルムチでは新疆師範大学とウルムチ市図書館・ウルムチ市博物館にて遊牧民の動物スポーツのデータ収集を、タイではThe Siam Society Libraryにてタイの伝統的動物スポーツについてのデータ収集をおこなった。 本年度は韓国の動物スポーツをめぐる問題を中心的課題の一つにしていたが、韓国における闘牛と闘犬の社会的地位の違いは、本研究にとって興味深いものであった。動物愛護法によって闘牛も闘犬も禁止対象とされるものの、闘牛は他方で保護対象の伝統文化の地位を付与され、あまつさえ公営ギャンブルに認定され、盛行する。闘犬について収集された情報によると、闘犬実施団体は、動物愛護団体から発せられる動物虐待非難に対し、闘いは犬の遺伝的行動で、犬が犬らしくあるための自然のふるまいであると合理化する論を展開しつつある。 動物愛護団体の非難は、こうした地域的な伝統的動物スポーツに集中する傾向がみられる。IOCが展開する国際スポーツは、国際馬術連盟が早くも「馬スポーツ憲章」を発表し、対策を講じている。伝統的民族スポーツと国際スポーツにおいては、この点、後者が先行する状況が見られる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度課題は、アジアにおける動物スポーツのデータ収集と、その文化的背景分析に当てられている。昨年度実施が叶わず今年度に持ち越された韓国調査も順調に実施され、興味深いデータが収集された。動物スポーツの文化背景は、当然ながら、これを行う民族によって異なっているが、多くのところで生業(伝統的生業)と関わる状況が認められる。そして、そのかかわりの程度が事例によって異なることも確かめられた。例えば韓国の闘牛のように牛がもはや耕牛の機能を期待されない事例から、モンゴル山岳地帯の鷹狩が食肉と換金毛皮の捕獲に利用される事例まで、生業―娯楽スケール上の位置はさまざまである。このスケール上において、娯楽の極に近づくほど、動物愛護団体からの非難が強くなる傾向は十分考えられるが、本年度の研究は、こうした新しい問題を気づかせてくれている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である29年度においては、動物スポーツと動物愛護の共存方策が検討される。動物スポーツ実施団体の主張と動物愛護団体の主張の情報収集は、これまでのフィールドワークで行われたが、なお論の構築に不足と判断される事例については、補充調査がおこなわれる。また、実施団体と愛護団体は共に動物スポーツの直接的利害関係者であるため、これとは別に、当該事例についての第三者的な文化的背景解明がなされる必要があり、この作業が前年度に引き続き行われる。
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