子どもの投能力低下は重大な問題となっているにも関わらず、科学的知見に基づいた効果的なトレーニング法は確立されていない。その理由は、習得過程における投動作の特徴は捉えられているが、投動作変化を引き起こす原因である基礎スキルが明らかになっていないためである。ここで、各筋の活動パターンを一つのグループとしてまとめたもの(筋シナジー)が様々な運動の中に共通して存在しているという筋シナジー仮説の観点からすると、基礎スキルを筋シナジーとして捉えることが出来る可能性がある。さらに、オーバーヘッド動作に共通するスキルを筋シナジーとして捉えることで、「運動学習の転移」と呼ばれる現象を明らかにすることが出来るかもしれない。よって、本研究の目的は、投能力向上に必要な基礎スキル、様々なオーバーヘッド競技間で共通するスキルを筋シナジーとして捉え、筋活動パターンとして抜き出すことである。 四年目である平成30年度では、様々なオーバーヘッド競技間で共通するスキルを筋活動パターンとして抜き出すことを目的とした実験を行った.健常な男子大学生に,野球の投球,バドミントンのスマッシュ,卓球のロビングスマッシュ,バーレーのサーブ,サッカーのスローイング動作を行わせ,その際の筋活動を測定した.12カ所の筋から得られた筋活動を基に,各競技動作での筋活動パターンを抽出し,各競技動作で抽出されたパターンが他競技動作での筋活動をどの程度再現できるのかについても解析を行った. 各競技動作での筋活動は,どの競技動作においても3個以内の筋活動パターンで表せられた.一方,ある競技動作で抽出された筋活動パターンが他競技動作中の筋活動をどの程度再現できるのかについては,競技間で違いが見られた.これらの結果は,「運動学習の転移」がある動作で獲得した筋活動パターンを他競技に活用できるかどうかで説明できる可能性を示唆している.
|