本研究の目的は,手指に内在する筋腱複合体(筋と腱の総称)のもつ弾性特性を外部から計測,推定する手法を提案し,スポーツ動作の定量的評価へ応用することである.研究課題として「この計測モデルの生理学的正しさの検証」「プレー動作中の手指関節角度変化と指先発揮力の計測」に取り組み,以下の研究成果を得た. 申請者らの提案モデルである「外力によって手指を伸展(伸ばす)方向に押し上げる際,指先発揮力が関節角度に応じて増大するモデル」において,指先へ加える外力で指屈筋腱を伸長させるときと,伸長させてから短縮させるときとの間でヒステリシスが生じることの原因を調査した.超音波画像診断装置を用いて腱の局所的な変位量を計測したところ,同一関節角においても変位量に差が確認され,過程によって腱長が異なる可能性が考えられる.また,手指の伸展時における筋の局所的な変化を計測したところ,腱の短縮動作時のほうが画像中で占める面積が大きいことが観測された.これが筋の弛緩等によるものであれば,筋張力の低下によって腱が短縮したと考えられる. 「プレー動作中の手指関節角度変化と指先発揮力の計測」については,バレーボールのオーバーハンドパスを対象として,ボールのキャッチおよびリリース時の指先の接触力と手指の関節角度を計測した.バレーボールの経験者と初級者それぞれに対して一定の高さから同じ位置にボールを落下させ,決められたポイントへパスを上げる動作を試行した.計測の結果,初級者に比べて経験者はボールキャッチの際,手指の伸展角度が大きく,また接触時間が長い傾向にあった.これにより経験者は腱の伸長による弾性エネルギーを有効に利用している可能性が示唆される.また,パスの成功率の高い被験者はボールの接触時間およびボールに与える接触力が複数試技間でよく類似しており,動作の繰り返し精度の高さが試技の成功率につながっていると考えられる.
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