研究実績の概要 |
本研究の第一の目的は,低酸素環境下での運動が認知機能に及ぼす影響を明らかにすることであった.そして,第二の目的は,低酸素環境下において運動中の認知機能の向上がみられなくなる閾値が存在するかどうかについて検討することであった.本研究では,通常環境下(吸入気酸素濃度:0.209)および低酸素環境下(吸入気酸素濃度:0.12-0.13)において安静時及び運動中に認知機能を評価した.運動強度は最高酸素摂取量の50%とし,認知課題はGo/No-Go課題と視空間遅延反応課題を組み合わせた二重課題とした.その結果,低酸素環境下でも運動中にGo/No-Go課題における反応時間の短縮がみられた(Normoxia Rest: 1015 ± 315 ms vs. Exercise: 862 ± 208 ms; Hypoxia Rest: 1023 ± 228 ms vs. Exercise: 896 ± 236 ms, P < 0.001).しかし,低酸素環境下での運動中の動脈血酸素飽和度の低下と,運動による反応時間の変化との間に負の相関がみられた(r = -0.57, P < 0.05).これらの結果は,1)厳しい低酸素環境下であっても運動中に認知機能が向上すること,2)動脈血酸素飽和度が低下すると,低酸素環境下での運動中の認知機能の向上が弱められることを示している.一方,運動中の脳血流の変化や脳の組織酸素飽和度の変化と認知機能の変化との間に関係はみられなかった.これらの結果から,動脈血酸素飽和度の低下が,低酸素環境下での運動中の認知機能に影響を与える大きな要因であることが明らかとなった.
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