研究実績の概要 |
骨格筋は環境的な要因によって形態や機能が変化する可塑性に富んだ組織である.他の細胞と異なり複数の細胞核が配置している「多核細胞」である.この特徴は,骨格筋適応のメカニズムを解明する上での重要なポイントである.本研究は,同一の筋線維内のそれぞれの領域において,細胞質内環境の変化に対する情報の共有化メカニズムの有無について明らかにすることを目的とした. はじめに,骨格筋細胞において,細胞全体が同一の形質や機能を保持するためには,細胞内環境を均一化するための物質輸送機構の存在が必要であると考えた.そこで,エネルギー基質として重要なグルコースに着目して,骨格筋細胞内の拡散・輸送システムについて検証した. 実験にはWistar系雄性ラットの脊柱僧帽筋を用いた.麻酔下において,マイクロインジェクション法により2種類の蛍光グルコース誘導体(2NBDG,2NBDLG, :鏡像異性体,MW:342)と蛍光色素FITC(MW:389)またはRhodamine B Dextran(MW:70,000)を筋細胞へ注入した後,それぞれ20分間観察した.筋線維内分布の広がり (分散) の経時変化から拡散速度を評価した.その結果,蛍光Dグルコース2NBDGの線維内の拡散速度は,蛍光Lグルコース2NBDLGよりも高値を示した.また,2NBDGは分子量の近いFITCや高分子量Rhodamine B Dextranと比較しても,拡散速度は有意に高かった.本研究の結果は,分子量の違いだけではなく,グルコース構造によって筋細胞内の拡散動態が異なることを示唆している.このことは細胞全体が同一の形質や機能を保持する機構の存在を示唆するものであるが,本研究は,その機序を解明するには至らなかった.
|