研究実績の概要 |
睡眠には覚醒時の疲労を回復させるという重要な生理的役割があり、睡眠の質の低下は覚醒時のプロダクティビティに悪影響を与える。競技スポーツで行われている高地トレーニングは高いトレーニング効果を期待できる反面、高地における夜間睡眠は睡眠の質が低下する恐れがあり、トレーニングによって生じた疲労の回復が遅延し、慢性疲労に陥る可能性もある。 低酸素環境における夜間睡眠の質の低下は中枢性無呼吸の出現や中途覚醒の増加、徐波睡眠の減少との関連性が指摘されており、これらの生理応答は低二酸化炭素血症が原因の一つとして考えられている。そこで本研究では酸素濃度15.4 %に設定した低酸素環境の夜間睡眠において室内の二酸化炭素濃度を1500ppmに保つよう設定した低酸素高二酸化炭素試技(HC試技)を低酸素試技(H試技)と通常環境下のコントロール試技(C試技)と比較し、室内の二酸化炭素濃度1500ppmが夜間睡眠の生理応答に影響を及ぼすか否か検討した。 平成29年度は平成28年度から対象者をさらに3名追加実験し、合計9名に対して解析を行った。その結果、ステージN1, ステージN2, ステージN3, ステージRは3試技間に有意差はみられなかった。中途覚醒とRR間隔から解析した交感神経活動はHC試技とH試技はC試技より有意に高値を示したが、HC試技とH試技に差異はみられなかった。睡眠時の無呼吸指数と酸素飽和度低下指数はHC試技とH試技の間に統計的有意差はみられなかった。寝つきや睡眠維持などの睡眠内省についてもHC試技とH試技の間に有意差はみられなかった。今回は低酸素環境下の睡眠中の生理反応に対する室内二酸化炭素濃度の影響を検証した初めての試みであったため、学校環境衛生基準に準じて二酸化炭素濃度を1500 ppmに設定したが、今後は二酸化炭素濃度を3000 ppm以上の濃度で検討する必要性がある。
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