研究課題
骨格筋は身体活動や運動を可能とする臓器であり、また、全身の代謝調節にも重要な役割を果たす。骨格筋量を多く保つことで健康状態がよくなり、疾病の予防にもつながることが明らかとなってきており、骨格筋は創薬のターゲットとして注目されている。本研究では、ヒト骨格筋幹細胞を免疫不全マウスに移植することにより「ヒト骨格筋を持つマウス」の作製に取り組む。再生能の高いヒト骨格筋幹細胞を濃縮する目的で、CD271の発現に注目した。ヒト骨格筋由来細胞をCD271の発現に基づき分画し、その特性を解析したところ、CD271陽性細胞は骨格筋幹細胞マーカーであるPax7を高発現し、また、非常に高い筋分化能を示した。CD271陽性細胞を免疫不全マウスに移植した結果、ヒト筋線維の形成が確認できた。これらから、ヒト骨格筋由来CD271陽性細胞にはヒト骨格筋幹細胞を濃縮されていることが示され、ヒト骨格筋を持つマウスの創出に有用であると考えられる。ヒト骨格筋由来細胞の詳細な解析から、CD271は筋系譜に特異的でないことが明らかとなった。すなわち高純度なヒト骨格筋幹細胞の獲得には、CD271単独では不十分で、筋系譜マーカーを組み合わせる必要があると考えられる。ヒト骨格筋由来細胞を用いて筋系譜マーカーの探索を行ったところ、新たな筋系譜マーカーとしてCD82を発見した。さらに、CD82の機能解析を行い、CD82がヒト骨格筋幹細胞の未分化性の維持に必要であることを明らかにした。以上から、CD82とCD271を組み合わせることで、さらに高品質なヒト骨格筋幹細胞が濃縮できると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
CD271をマーカーに用いてヒト骨格筋幹細胞を濃縮し、免疫不全マウスの骨格筋中にヒト筋線維を形成することに成功した。また、CD271が筋系譜特異的でないという問題点を解決するために、筋系譜マーカーの探索を行い、CD82を発見した。機能解析からCD82は単にマーカーとして有用なだけでなく、骨格筋幹細胞の未分化性維持に機能していることが明らかとなり、極めて有効なマーカーとなり得ることを示した。CD82とCD271の組み合わせにより、さらに高品質なヒト骨格筋幹細胞の濃縮が可能になると考えられる。
免疫不全マウスの骨格筋中にヒト筋線維を形成することに成功したが、移植効率は未だ低く、さらなる改善が必要となる。昨年度の成果から、CD82とCD271の組み合わせにより、さらに高品質なヒト骨格筋幹細胞の濃縮が可能になると考えられるため、CD82とCD271を用いた細胞の単離を実施し、その移植効率を検討する。また、CD82とCD271の骨格筋幹細胞における機能的意義を追究し、そこから得られた結果を移植効率改善に発展させる。特に、CD82は骨格筋幹細胞の未分化性維持に機能していることを明らかにしているため、そのメカニズムの解明は、さらなる移植効率改善につながると期待できる。
研究計画が当初の予定より順調に進んだこと、及び、研究の進展に応じて計画内容に変更が生じたことにより、次年度使用額分が生じた。
「研究実績の概要」「現在までの進捗状況」に記載の通り、計画通り順調に進んだ面と新たに生じた問題がある。新たに生じた問題解決のために「今後の研究の推進方針」に従い次年度使用額を使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち謝辞記載あり 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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