ウイルス感染症の発症とその重篤化を予防するために、健常人体内でウイルスを増え易くする未知の宿主因子を探索した。男性1、女性2の計 3名の健常人(被験者A、B、及びC)から採取したそれぞれ約80検体の安静時唾液を検体とした。唾液検体中のトルケテノウイルス(TTV)及びヒトヘルペスウイルス6型(HHV6)DNAは,Nested real-time PCR法で定量した。唾液検体中のα-アミラーゼの濃度は酵素活性を指標にして測定した。唾液検体中の分泌性IgAとエストラジオールの濃度はELISA方によって測定した。主観的な、肉体的疲労、精神的疲労、眠さ、やる気、喜び、怒り、悲しさ、及び楽しさはVisual analogue scaleを用いて数値化して評価した。その結果、被験者Aでは、TTV DNA量はα-アミラーゼと負に相関し、分泌性IgAとエストラジオールと弱い負の相関を示した。また、肉体的疲労と正に相関し、喜びと弱い負の相関を示した。HHV6 DNA量はα-アミラーゼ、分泌性IgA、及びエストラジオールと弱い正の相関を示した。被験者Bでは、TTV DNA量はα-アミラーゼと分泌性IgAに弱い負の相関を示し、HHV6 DNA量は分泌性IgAとのみ弱い負の相関を示した。被験者Cでは、TTV DNA量はエストラジオールと肉体的疲労に弱い負の相関を示した。また、HHV6 DNA量はα-アミラーゼと正に相関し、エストラジオール、肉体的疲労、精神的疲労,眠さ、喜び、悲しさ、及び楽しさと弱い負の相関を示した。TTVまたはHHV6 DNA量と相関する因子が見出されたが、3名の被験者全てに共通する事項は認められなかった。男女差、各被験者の性格、並びに持続感染ウイルス量の多少がその原因として影響していると推測される。
|