研究実績の概要 |
近年、国内外ともに罹患者が急増している非アルコール性肝障害(NASH)の発症機構を解明するとともに、発症予防、発症遅延のための方策を提供することを目標とした。その中で、特に注目するのは、「酸化ストレスの量と質の特定」である。NASHの発症には酸化ストレスが関与し、ビタミンEによってその抑制が可能であるとの報告もあるが、いまだにメカニズムは不明である。酸化ストレスの中でもNASH発症に関与するストレス種を新規バイオマーカーであるヒドロキシリノール酸(HODE)によって特定する。さらに、特定できたストレス種の発症に至る閾値をモデル動物実験によって定量的に評価する。最終的にヒト被験者試験を行うことにより、NASH予防、抑制のための方策を提供する。新たに開発したNASHモデル動物(STAMマウス)における血液および臓器を用いて、酸化ストレスマーカー等の測定を行った。STAMマウスの疾病進行に伴って、肝臓障害マーカーの値は顕著に高くなり、同時にHODEの値も高値を示した。しかしながら運動によって肝臓障害マーカーは有意に低くなるもののHODEの値には変化は見られなかった。HODEを用いると、異性体によってラジカル酸化(9,13-(EE)-HODE)、酵素酸化(9,13-(ZE)-HODE)、一重項酸素酸化(10,12-(ZE)-HODE)の特定が可能であるが、それぞれの異性体を比較しても有意な変動は見られなかった。以上のことから、NASH発症には酸化ストレスが関与し運動によってNASHの緩和が見られた。しかしながら、NASHの緩和の際に酸化ストレスの低下は見られず疾患の完全治癒には運動以外の因子も必要であると推察される。
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