研究課題
免疫応答は加齢とともにその正常な機能が失われるため、高齢者での感染症は重篤化しやすく、またワクチンに対する応答性も低下している。さらに高齢者で問題となる疾患の多くで免疫学的異常の関連が指摘されている。一方、HIV感染症は免疫システムの破綻が病態の本質であるが、近年、慢性HIV感染者では免疫学的特徴が高齢者と多くの点で共通しており、不可逆的な「免疫老化」と呼ばれる状態に陥っていることが明らかとなってきた。本研究では、高齢者の感染症予防、各種疾患の予防や管理に有用な知見を得ることを目的とし、HIV感染者と高齢者の分子レベルでの免疫学的特徴を明らかにし、未だ明らかとなっていない免疫老化を規定する要因の特定を目指す。獲得免疫の中心となるT細胞に注目し、本年度は慢性HIV感染者(未治療群、治療群)と年齢を合わせた健常者の末梢血単核球試料を用いて、免疫老化との関連が明らかとなっている因子(T細胞におけるナイーブT細胞比率、CD57分子の発現等)と、これまで免疫老化との関連が知られていないメモリーT細胞の生存や増殖に重要なOX40分子の発現について、検討を行った。その結果、慢性HIV感染者では非感染者に比べて有意にナイーブT細胞比率が低く、逆に最終分化段階にあるT細胞比率が高く、それは効果的な抗HIV治療を行っても回復しなかった。また、HIV感染者ではナイーブT細胞、早期段階のメモリーT細胞におけるOX40発現が亢進しており、治療群においても同様であった。さらに、ナイーブT細胞比率とナイーブT細胞上のOX40発現の間には負の相関が見られた。これまで、慢性HIV感染者ではメモリーT細胞の異常が報告されているが、本研究結果から、ナイーブT細胞においても何らかの異常が起きていることが示唆された。
3: やや遅れている
昨年度末に研究機関を異動したため、本年度前半は研究体制の整備等に一定の時間を要し、研究の進捗に若干の遅れが生じた。
本年度ナイーブT細胞、早期メモリーT細胞におけるOX40発現異常を明らかにしたが、さらに網羅的に各種遺伝子発現について明らかにするため、網羅的エピジェネティクス解析を行い、未だ明らかとなっていない免疫老化に関連する要因を探索する。ナイーブT細胞の異常については、未だほとんど解析されていないため、詳細に検討を行う。
昨年度末に研究室を異動したため、実験室のセットアップ等に時間を要し、研究の進捗に遅れを生じ、予定していた実験の一部が遂行できなかったため。また、年度末納品等にかかる支払いが平成28年4月1日以降となったため、当該支出分(\261,531)については次年度の実支出額に計上予定である。
予定していた実験の準備が整ったため、H28年度に行う予定である。H28年度中に実験に必要な消耗品等を購入するために使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
PLoS One
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