研究課題
ヒト脳の言語機能における遺伝と環境の影響を明らかにする目的で、高齢ふたごの脳磁界測定し、脳の可塑性に及ぼす影響を解析した。対象は大阪大学ツインリサーチセンターに登録されている一卵性双子28組(年齢57.8±12.5才)と二卵性双子11組(年齢60.8±17.6)で、言語タスクには動詞想起課題を用い、脳磁界計測は160チャネル全頭型脳磁計を用いた。結果は、空間フィルターを用いたグループ解析により、単語提示後500msから1000msで左前頭葉に事象関連脱同期のピークを認めた。ピーク部位にバーチャルセンサーを置き時間周波数解析を行ったところ、500msから1000msにおける左前頭葉の事象関連脱同期のパワーの相関係数は一卵性ペアで0.42、二卵性ペアで0.20、他人間で-0.02で一卵性は高い相関を示した。事象関連脱同期パワーの遺伝と環境の寄与率を共分散構造分析により算出すると、遺伝の影響が50.1%、環境の影響が49.9%であった。以上の結果からヒトが言語獲得する小児期の時代をはるかに過ぎた60才前後になっても遺伝の影響を約50%受けており、言語は後天的に獲得する脳機能ではあるが環境の影響は半分程度であることを明らかにした。一方、他者の動作を観察するときの脳活動は乳児の時から認められており、遺伝の影響を強く受けていると考えられるがその程度は明らかではない。そこで示指伸展観察課題を行い、脳磁計を用いて20ペアの一卵性双子、11ペアの二卵性双子についてグループ解析を行ったところβ帯域で左下頭頂小葉に反応のピークが見られた。その領域での事象関連脱同期パワーの相関係数は一卵性で0.68、二卵性で0.14となり、共分散構造分析では遺伝率が72%であった。この結果は、他者の動作を観察している時の脳活動は平均60才という長い年月を経ても遺伝要因が大きく関与していることを明らかにできた。
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NeuroImage
巻: 142 ページ: 241-247
doi: 10.1016/j.neuroimage.2016.05.066. Epub 2016 May 27