研究課題/領域番号 |
15K12705
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
石川 智久 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10201914)
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研究分担者 |
金子 雪子 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (00381038)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 膵β細胞 / インスリン分泌 / メラトニン受容体 / N-アセチルセロトニン / セロトニン |
研究実績の概要 |
松果体では、AANAT (arylalkylamine N-acetyltransferase) によりセロトニンからN-acetylserotonin(NAS)が生成され、さらにHIOMT (hydroxyindole O-methyltransferase) によりメラトニンが生成される。しかし我々は、松果体でのメラトニン産生が認められないC57BL/6Jマウスの膵島においても、他系統のマウスの膵島と同様に、メラトニンによりグルコース誘発インスリン分泌が抑制されることや、メラトニン受容体MT1及びMT2受容体が同程度発現していることを示した。また本研究初年度には、膵β細胞ではHIOMTの発現は認められないがAANATの発現が認められることを見出し、膵β細胞でNASが生成される可能性を示し、さらに、膵β細胞においてNASがメラトニン受容体を介してグルコース誘発[Ca2+]iオシレーションを抑制することを証明した。膵β細胞では、妊娠期にセロトニンの産生が増大することが知られている。そこで今年度は、妊娠期におけるNASの発現変化について検討を行った。妊娠期を擬したセロトニン存在下でマウス由来膵β細胞株MIN6B細胞を48時間培養した。セロトニン処置よりβ細胞数の増加が確認され、セロトニンがMIN6細胞増殖亢進作用を有することが示された。そして、NAS合成酵素であるAANATの発現がセロトニン処置により増加することが示された。以上の結果より、妊娠期の膵β細胞ではセロトニン産生が増加し、膵β細胞増殖促進やインスリン分泌促進に働くが、同時に、AANATによるセロトニンからのNASの生成も増加し、セロトニンの作用を制御している可能性が示された。今後、妊娠期におけるセロトニンとNASのインスリン分泌や膵β細胞量調節における相互作用について解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初考えていた腸管ホルモンとしてのメラトニンによる膵β細胞機能調節に関しては、その仮説を支持できるエビデンスがまだ得られていない。代わりに、解析の過程で得られた結果を基に立てた、膵β細胞でNASが生成され、メラトニン受容体に作用することで、膵β細胞機能調節に関与しているという新たな仮説について、更なる検討を行った。NASの前駆物質であるセロトニンは、β細胞において妊娠期に生成が増大することが報告されていることから、NAS生成と妊娠期との関連について解析を行った。そして今年度は、NASの合成酵素であるAANATのβ細胞における発現がセロトニン処置により上昇することを明らかにした。当初の計画とは異なるが、β細胞におけるメラトニン受容体を介した新たな調節機構の存在を示唆する興味深い結果が得られつつあることから、十分な成果は得られていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度になるため、腸管由来のセロトニンによる膵β細胞機能調節の可能性についての検討は休止し、膵β細胞に存在するメラトニン受容体の生理的リガンドが膵β細胞で産生されるNASである、という仮説の証明をめざす。膵β細胞におけるAANATの発現がセロトニン処置により増大したことから、その機序の解析を行う。また、プレドニゾロンがAANAT発現に及ぼす効果の検討や、インスリン分泌や膵β細胞増殖に対するセロトニンとNASとの相互作用について、セロトニン受容体やメラトニン受容体の拮抗薬を利用した薬理学的な解析を行う。さらに、妊娠期におけるNASの産生変化と血中インスリン値や血糖値との関係を調べることにより、NASによるメラトニン受容体を介した膵β細胞機能調節が妊娠糖尿病発症に関与する可能性についても検討を行う。
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