メラトニンは、セロトニンからAANATによるN-アセチルセロトニン(NAS)の生成を経て、HIOMTにより生成される。膵β細胞に発現しているメラトニン受容体は腸管由来のメラトニンにより制御されるという仮説のもと本研究を開始したが、膵β細胞でNASが生成されることが示唆され、NASがメラトニン受容体を刺激することが報告されていることから、膵β細胞で生成されるNASがオートクリンとしてメラトニン受容体に作用するという仮説に変更して検討を進めた。マウス初代培養β細胞において、グルコース誘発[Ca2+]iオシレーションはNASにより濃度依存的に抑制された。膵β細胞株であるINS-1D細胞及びMIN6B細胞でも同様の検討を行ったところ、どちらの細胞でもNASによる[Ca2+]iオシレーション抑制作用が認められたが、MT2受容体の発現が相対的に高いINS-1D細胞の方がMIN6B細胞よりもNASによる抑制が強く現れた。そこで、NASの抑制作用に対するMT2受容体選択的拮抗薬4-P-PDOTの効果を検討したところ、多くの細胞で4-P-PDOTによるNASの抑制作用の消失が認められた。さらに、MIN6B細胞におけるグルコース誘発インスリン分泌に対して、NASが濃度依存的に抑制作用を示すことも確認した。以上より、NASは膵β細胞のMT2受容体に作用することにより、グルコース誘発[Ca2+]iオシレーション及びインスリン分泌を抑制することが示された。前年度の検討により、妊娠期にAANATの発現が変化することを見出しており、NASの生成が妊娠期で変化し、そのインスリン分泌抑制作用も変化する可能性が考えられる。すなわち、膵β細胞で生成されるNASがオートクリンとしてMT2受容体に作用しインスリン分泌を制御していることが示唆され、さらに妊娠期における血糖制御にこの機構が関与している可能性が示された。
|