研究課題/領域番号 |
15K12707
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
松岡 功 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (10145633)
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研究分担者 |
伊藤 政明 高崎健康福祉大学, 薬学部, 助教 (30438759)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 運動トレーニング / 骨格筋 / 糖取り込み / ATP / P2Y2受容体 / 細胞外ATP分解酵素 |
研究実績の概要 |
運動療法は食事療法とともにⅡ型糖尿病の予防・治療の基本であり、実際に優れた血糖異常の改善効果が認められている。しかし、運動がどのようなメカニズムで高血糖を改善するかは十分明らかにされていない。近年、物理的な力が我々の健康維持や疾患に深くかかわっていることが示唆されている。ATPをはじめとする細胞外ヌクレオチドも、この物理的な刺激で様々な組織から放出され、プリン作動性受容体を介して多様な作用を示すことが知られている。そこで本研究では、骨格筋の進展刺激に着目し、C57BL6マウスからひらめ筋を摘出し、収縮によるATPの放出をルシフェリン-ルシフェラーゼ法により測定した。また、運動負荷によるマウス骨格筋のプリン作動性シグナル遺伝子発現および耐糖能への影響を検討した。 マウス摘出ひらめ筋に電気刺激を加えると筋収縮が起こり、それに伴いATPが細胞外に顕著に放出された。腓腹筋のプリン作動性シグナル遺伝子発現をRT-PCR解析により測定した結果、ATP受容体の1つであるP2Y2受容体の発現が認められた。我々は骨格筋の培養細胞であるラットL6筋芽細胞において、P2Y2受容体の刺激がグルコース輸送体(GLUT)4の膜移行を促進し、筋細胞への糖取り込みを増加させることを見出した。実際に回転かご式自発運動量測定装置を用いて4週間自由運動負荷を行ったマウスでは、腓腹筋のP2Y2受容体遺伝子の発現量が亢進し、糖負荷試験に対する耐糖能の改善が認められた。以上の結果から、運動負荷によって骨格筋収縮に伴い放出されたATPによるプリン作動性シグナルが、運動療法による血糖値改善効果のメカニズムの一部として機能している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画とおり、培養細胞レベルでATPがプリン受容体を刺激し、細胞内への糖取り込みを促進することを確認し、この反応がP2Y2受容体を介して糖輸送体GLUT4の細胞膜への移行を促進させて発現していることを見出した。さらに、摘出骨格筋標本において、電気刺激による筋収縮が細胞外ATPの蓄積を生じ、骨格筋標本にはP2Y2受容体の発現が認められることから、筋収縮がATP放出を起こし、P2Y2受容体を刺激すると考えられた。また、生体内においても運動負荷が耐糖能を改善し、この時、骨格筋のP2Y2受容体が増加し、ATPを分解する酵素の発現も増えていることが認められた。このように次年度の計画を立てる基盤をそろえることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果に基づき、今後は生体内におけるP2Y2受容体の運動による糖取り込み促進作用における役割を遺伝子改変マウスを用いて検証する。すなわち、P2Y2受容体ノックアウトマウスを準備し、回転カゴ自発運動モデルにより耐糖能の変化が対照動物に比べどのように変化するかを調べる。また、プリン受容体、ATP分解酵素の発現変化もP2Y2受容体ノックアウトマウスで調べる。また、動物から初代培養筋芽細胞の調製を試み、細胞株で見出した反応が再現できるか検討する。また、初代培養筋芽細胞または細胞株を用いて、ATPによる糖輸送体GLUT4の細胞膜への移行を促進のメカニズムを解析する。
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