乳幼児の運動発達は,従来,McGrawやGesellが提唱した神経成熟理論に基づいて,中枢神経系の下位階層から上位に向かって成熟が進むことを反映していると説明されてきた。しかし,Edelmanにより脳内の神経細胞は発達や行動の中で多様なネットワークを作り,必要な構造や機能を選択的に組織化するという神経細胞集団選択理論が提唱され,中枢神経系の成熟が乳幼児自身の行動やそれによって環境から受ける刺激により変化することが示唆されている。また多賀らは,乳幼児の運動の変化が無作為な動き(拡散)から,組織化された動きへと収束していくことを報告している。 一方,人の初期の移動方法であるハイハイは,腹部を床に接地したままで行うcrawlingから四肢のみで体重を支持し重心を持ち上げたcreeping,さらに重心を持ち上げた高這いに変化するという流れのみに注意が向けられ,その質的な評価は十分になされていない。その要因の一つは,動作分析は多くの場合いくつかのパターンへの分類という手法をとるため,外的な条件設定の困難な乳児では適切な分類方法を作成することが困難なためと思われる。 そこで,本研究では多様な運動に対応するため,動作分析で用いられることの多いパターン分類をあえて行わず,大項目4,小項目22の観察項目を設定し,それぞれを3~6にコード化することで,理論的には47億を超える動きの組み合わせに対応できるような「ハイハイ動作分析基準」を考案した。この基準を使用し,ハイハイ動作獲得前から歩行獲得に至るまでのハイハイ動作の変化を経時的にコード化した。このコード化処理を同じ画像について7名の観察者で3回ずつ行い,観察者内および観察者間の再現性が高まるように動画の撮影方法やコード化の基準を修正し,客観的なコード化基準を作成した
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