研究課題/領域番号 |
15K12728
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
立道 昌幸 東海大学, 医学部, 教授 (00318263)
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研究分担者 |
遠藤 整 東海大学, 医学部, 講師 (10550551)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高学習能 / THAラット / 母子間伝達 / 子宮内環境 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者らが維持している高学習能モデル動物Tokai High Avoider (THA) ラットを用いて、子宮内環境や母乳成分による次世代の学習・記憶機能への影響を解析し、次世代に受け継がれる高学習能を規定する新規の分子因子を解明することを目的とする。THAラットとは、野生型のWistar 系ラットをもとに、レバー押し電撃回避試験で好成績を示す個体同士を繰り返し自然兄妹交配させ、30年以上の年月をかけ近交系を確立・維持してきた、生まれながらに高い学習能力と安定した情動性を示し、かつ個体差が極めて小さい実験動物であることが証明されているラットである。 本年度は学習能力が全く異なる母胎に高学習能を有するTHA ラット由来受精卵を(代理懐胎)移植し、子宮内環境を介して母体側の学習レベルが次世代の学習行動にいかなる影響を与えるかを検討するため、雌雄のTHA ラットを通常継代方法に従い兄妹交配させ、2 細胞期胚の採取を試みた。性成熟に達している10―12週齢のTHAラットを用いて、プラグとギムザ染色による膣垢検査(性周期と精子侵入)を確認後、2細胞期胚の採取とガラス化保存を行った。THAラットの2細胞期胚は、排卵誘発を使用せずとも一般飼育環境下で採取することが十分可能であることが分かった。採取したTHAラットの胚を一定期間液体窒素中で保存後、BrlHan:WIST-Jcl, Jcl-Wistar, およびTHAラットを母体とし移植したところ、レシピエントの系統の違いにより個体復元率が異なることがわかり、系統および母体環境の相違が代理懐胎を介した出生に影響を与える可能性が示唆された。一方で、レシピエントがTHAラットの場合、復元個体後の学習能力に変化を認めなかったことから、胚取得や液体窒素での保存により生じる環境変化は、THAラットの高学習能には影響しないことを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、THAの自然交配させた個体より2細胞期胚の取得および液体窒素保存後に個体復元させることに成功した。このことより、本申請の主たる研究テーマである子宮内環境を介した高次脳機能への影響評価を行うことのみならず、THAラットの系統保存の可能性が初めて示され、リサーチリソースとしての展開を見出すことが出来た。加えて、THAラットの個体復元率は移植胚と同系であっても、レシピエントの由来が影響することが示され、子宮内環境を含めた非ジェネティック要因が重要な役割を担うことが示唆された。また、胚移植に伴う生殖工学技術が個体復元後の表現型に影響を与えないといった重要な知見を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
胚移植実験に用いるために十分量の胚取得が必要であり、現在継続して取り組んでいる。また、THAラット胚を移植するためのレシピエントを用意するため、雌Wistarラットの学習試験を行うと同時に、精管結紮ラットの作成を行う。子宮内環境による表現型への影響が考えられた際に、遺伝子発現の網羅的解析、タンパク発現、代謝産物の測定などを行う。概ね研究計画通り研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究が順調に推移し動物の飼育費用が計画より少額であったため、次年度使用額が生じた。次年度以降も胚取得を行う必要性があり、子宮内環境を介した影響評価についてより詳細な分子メカニズムに迫るべく、引き続き実験を継続するため次年度使用が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
THAラットの系統維持や研究遂行のため、一般的な実験試薬、各種解析に関連した一般消耗品を購入し、引き続き生化学的解析と行動学的試験を中心に検討していく。また、トランスクリプトーム解析やメタボローム解析などの費用に充当する予定である。
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