研究課題/領域番号 |
15K12742
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
佐藤 伸一 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (20633134)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 触媒的タンパク質修飾 / アフィニティー精製 / FG beads / 部位特異的修飾 / 一電子酸化 |
研究実績の概要 |
申請者が独自に見出したRu光触媒を用いたタンパク質修飾技術をアフィニティービーズ固相担体上で行うことで、タンパク質親和性リガンドに対する結合タンパク質の高感度検出、部位選択的な機能性タンパク質のラベル化を目標に研究を開始した。 容易に回収可能な磁気分離特性、光反応条件に好都合な分散性の高さ、非特異的吸着の少なさ等の理由より、多摩川精機社製のFG beadsを固相担体として選択した。第一段階の目標として、既存の親和性リガンドMTXと光触媒を固定化したときに固相表面上でMTXの標的タンパク質DHFRが細胞破砕液の中から、選択的にラベル化できるかを検討した。初めに、光触媒部位に相当するRu(bpy)3-linkerをFG beadsに導入したところ、予想外にもRu(bpy)3構造に由来する多くの非特異的結合が観測された。そこで、非特異的吸着性、タンパク質のラベル化効率に焦点を当てて、本研究に最適な固相表面構造を構築することを目的とした。種々のリンカー構造、固相表面のキャッピング剤構造、光触媒の構造を検討した結果、ラベル化効率を保持しつつ、非特異的吸着を大幅に低減させることに成功した。 また、MTXと触媒を同時に担持した固相担体を用いることで、細胞破砕液中の標的タンパク質DHFRをビオチンでラベル化、ウエスタンブロットによってラベル化タンパク質を発光検出した。その結果、DHFRと思われるタンパク質の電気泳動バンドを従来の銀染色より高感度に検出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度開始時のH27年度目標として、本研究目的を達成する上で重要な課題である、タンパク質ラベル化機能を持つアフィニティービーズ固相表面の化学構造の精査、創成を目標とした。その上で、タンパク質混在系の中でもアフィニティーリガンドの標的タンパク質のみを選択的に固相に結合できるような技術が必要不可欠であった。そこで、より非特異的吸着性の少ない固相担体としてFG beadsを選定し、FG beads表面を修飾することで、タンパク質ラベル機能を持たせることを計画した。 研究開始後すぐに、当初計画していたRu(bpy)3錯体構造では細胞破砕液のタンパク質混在系に対して多くの非特異的吸着が生じてしまうことが判明し、研究概念が危ぶまれたが、種々のリンカー構造、固相表面のキャッピング剤構造、光触媒の構造を検討した結果、ラベル化効率を保持しつつ、非特異的吸着を大幅に低減させることに成功した。 よって、本年度の目的であるタンパク質ラベル化機能を持つアフィニティービーズの創成については、概ね計画通りに進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の様に、現在までにタンパク質ラベル化機能を持つアフィニティービーズの固相表面構造に関する知見を得ている。現在は研究概念実証のため、既存のアフィニティーリガンドを用いた実験を行っているが、今後は、本固相担体を用いた応用展開に着手する。具体的には、従来のアフィニティークロマトグラフィー技術では解析が困難であった、低発現量のタンパク質解析、結合力が弱い/結合解離が速い標的の解析に応用する。 低発現量のタンパク質解析:従来のアフィニティークロマトグラフィーでは銀染色等のタンパク質染色によって結合タンパク質の解析を行う方法がほとんどである。申請者が開発しようとしている技術では固相表面にタンパク質修飾触媒を結合させて、ビーズに結合したタンパク質を特異的にラベル化することが可能になる。例えば、ビオチンでラベル化すれば、数十pgでの検出が可能になり、従来の銀染色の検出感度(~数ng)を改良する方法となる。 結合力が弱い/結合解離が速い標的の解析:従来法では、タンパク質染色法自体に選択性が無いため、固相に特異的に結合する標的以外を洗浄する作業工程を必要とする。多数回の洗浄操作により、結合力の弱いタンパク質や結合解離の早いタンパク質は系外へ除去されてしまうため、従来法はある程度強固な結合の標的に適用が限られている。本開発目的の手法はタンパク質混在の中でビーズ固相表面に結合するタンパク質のみを選択的にラベル化させるため、弱くとも固相表面に結合していたタンパク質を追跡することが可能になる。 上記の目標が達成でき次第、もしくは、基質タンパク質の適用範囲が明らかになり次第、抗体の修飾への適用を目標に研究に着手する。そのうえで、ラベル化により抗体の抗原認識能が失われないような反応条件の検討を念頭に研究を展開する。最終的な目標は抗体のFc領域に特異的にラベル化を達成しうる固相上の反応場確立である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行のため、FG beadsの購入を企画していたが、申請者がH27年度に受けたリバネス多摩川精機賞の副賞として、20万円相当のFG beadsを多摩川精機株式会社から譲渡されたため、その分の予算が次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本予算はH28年度でも使用の予定があるH28 年度分のFG beadsの購入費に充てたい。
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