我々が独自に開発したRu光触媒を用いたタンパク質修飾技術は触媒の周辺数nmという限定された空間で選択的に反応が進行する。Ru光触媒と抗体と結合するリガンド分子をアフィニティービーズ固相担体の表面に担持させた。このビーズ表面では抗体とRu光触媒が近接するため、抗体を修飾することが可能である。さらに、リガンド分子に抗体の部位特異的に結合するものを選定すれば、「触媒が担持されたビーズ表面から数nmの範囲で起きる反応」という特性を活かし、抗体(大きさ約10 nm)の部位特異的修飾が可能であると考えた。 初年度の検討の結果、これまで用いてきたRu(bpy)3錯体を用いると、ビーズへのタンパク質の非特異的吸着が顕著に増大してしまうという問題があったが、光触媒構造をRu / dcbpy錯体に変更することで、この問題を改善し、モデル基質を使ったタンパク質混在系でのリガンド結合タンパク質の選択的修飾に成功した。さらに、修飾剤構造を検討することで、触媒の近接空間で選択的かつ効率的な修飾が可能であった。これにより、従来用いていた修飾剤よりも効率と標的選択性を改善することにも成功した。 リガンド分子に抗体の特定の部位に結合する分子を用いて、抗体を修飾したところ、抗体の部位選択的な機能性修飾が示唆され、上記の研究概念を立証することに成功した。 また、アフィニティービーズを用いた本技術は、これまで私たちが用いてきたリガンド連結型の光触媒よりも、効率的かつ標的選択的にリガンド結合タンパク質を化学修飾することが可能であり、修飾されたタンパク質の高感度検出が可能であった。これを応用し、従来のアフィニティークロマトグラフィーでは精製が困難な低親和性のタンパク質や発現量の少ないタンパク質を検出・同定する手法を開発することにも成功した。
|