研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の原因物質である42残基のアミロイドβタンパク質(Aβ42)は,凝集することによって神経細胞毒性を示す.最近,神経細胞外に蓄積するAβ42フィブリル(100量体以上)よりも,神経細胞内で会合するAβ42オリゴマー(2 ~ 24量体:2あるいは3量体が構成単位)によってもたらされる酸化ストレスのAD病態への関与が指摘されている.しかしながら,細胞内におけるAβ42オリゴマーの作用機序および標的分子は不明のままである.これまで本研究代表者らは,Aβ42が22,23番目でターン構造をもつ毒性コンホマーを形成することによって,細胞内でオリゴマー化しやすくなっていることを示唆するデータを得ている.本研究では,Aβ42の毒性オリゴマーの細胞内における標的タンパク質を同定することにより,毒性オリゴマーのAD病態機序を分子レベルで解明することを目的としている. 昨年度合成した,Aβ42の2量体モデルのビオチン化プローブとSH-SY5Y細胞の細胞質抽出液とを反応させた後,ストレプトアビジン修飾磁性ビーズを用いて回収し,結合タンパク質を泳動したゲルをSYPRO Rubyで蛍光染色した.ゲル内消化酵素してMS/MS解析を行ったところ,この2量体モデルに特異的に結合する複数のタンパク質が認められた.一方,これらはモノマーにはほとんど結合しなかった.最近,イオンモビリティー質量分析より,本2量体モデルをインキュベーションすると安定な12~24量体を形成することがわかった.これより,2量体モデルをプレインキュベーションして同様に標的探索したところ,見いだされた特異的バンドの強度は増大した.以上より,本2量体モデルは毒性オリゴマーの細胞内標的探索に有用な分子プローブである可能性が高い.今後,細胞内シグナル伝達に着目したさらなる検討が必要である.
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