研究実績の概要 |
本研究では、我々のチオクロモン型光解離性保護基(TCM)を用いた新規ケージド化合物を合成し、光照射(アンケージング)により、保護されていた生命分子が機能を復元する時期と場所を高度に制御するだけでなく、その保護基がアンケージング時に極めて強い蛍光を発する四環性化合物へ変換されるという特性を最大に活かして、その蛍光強度測定による脱保護反応進行度の定量化を行う。さらに、その成果を新規細胞セレクション法の開発に応用することを目的とした。 ルシフェラーゼ阻害剤として知られているレスベラトールの三つの水酸基をTCMでマスクしたケージド体の詳細な検討を行い、2-もしくは3-ケージド体を用いて、光照射によるアンケージングを行った結果、照射時間とともに四環性化合物の蛍光発光は増大し、これに相関してルシフェラーゼ阻害能が増強していくことを見出し、学術論文誌上にて発表した(ACS Omega,2017,2,2300-2307)。これらケージ化されたレスベラトールは水溶性が極めて低く、水溶液中でのアンケージングの効率が非常に低いことが判明し、TCMに高水溶性を持たせる必要があることが今後の課題として残った。 また、水中でコレステロールを選択的に取り込む水溶性分子シクロデキストリン(CD)に着目し、TCMによりケージ化されたβ―メチルCDを合成し、その細胞膜からの膜中コレステロールの引き抜き光制御を検討した。リン脂質およびコレステロールから調製した擬似細胞膜リポソームを用いて、このケージド化合物のコレステロール引き抜き能を調査した結果、光照射前に、コレステロールおよび一部のリン脂質を取り込み、リポソームの破壊をもたらすことがわかった。続いて、光照射することにより、アンケージングされ主としてコレステロールを包接し、リン脂質が放出され、リポソームの再形成を導く興味深い新現象を発見した。
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