研究課題/領域番号 |
15K12754
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊地 和也 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70292951)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | in vivoイメージング / 破骨細胞 / 蛍光プローブ / 光安定性 |
研究実績の概要 |
本研究では、破骨細胞の活性化を可視化する化学プローブを開発し、動物個体としてマウスを用い二光子励起in vivoイメージングを行う。具体的な化学プローブに求められる機能としては、①破骨細胞が活性化し骨を溶解するときに産生する低pH環境を可視化できる蛍光色素、②二光子励起顕微鏡を用いて長時間観察可能なレーザー耐性、③骨組織への効率的な送達能、の3つである。これらの条件を満たした蛍光プローブをデザイン・合成し、破骨細胞を蛍光タンパク質でラベルしたマウスモデルを用いて長時間蛍光イメージングを行う。我々は緑色蛍光を示し、光安定性を有するBODIPY色素にビスホスフォネート基による骨組織への高いデリバリー能力を兼ね備えたプローブ、pHocas-3を開発した。pHocas-3はBODIPY骨格に電子吸引基が導入されており、光照射下で発生する活性酸素種との反応性が大幅に抑えられている。そのため、色素の高い光安定性から、二光子励起顕微鏡を用いた長時間にわたる破骨細胞のin vivoイメージングへの応用が可能であった。この知見を基に、本研究では生体内の自家蛍光の影響が少なく、緑色蛍光タンパク質発現マウスモデルとの併用が可能な赤~近赤外領域に蛍光を示すプローブの開発に取り組んだ。そこで先述のBODIPY色素を母体に、π電子系を拡張し、赤色領域に蛍光を示すプローブ、Red-pHocas類を設計した。設計にあたって、中性環境下(7.4)では蛍光を発せず、破骨細胞の活性化に伴う低pH環境下(4.5~6.0)で蛍光を示すために、プローブ構造の最適化を量子力学計算により行った。その結果、適した構造を有するプローブの合成を行い、その蛍光特性について試験管内ならびに骨組織のモデルを用いて詳細に解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回新たに開発した蛍光プローブ、Red-pHocas類の色素母体であるπ電子系を拡張したBODIPY色素はこれまでに開発した緑色蛍光を示すプローブと比べて最大蛍光波長が580nmと長波長側へシフトした。このため生体内の自家蛍光の影響が少なく、外部より投与したプローブのみを選択的に可視化することが可能である。また、色素への光誘起電子移動による蛍光のOFF/ONスイッチングを効率よく起こすために、色素骨格の8位に修飾したアニリン誘導体の最適な電子状態、ならびにpKaを量子力学計算により求めた。量子力学計算により、アニリン誘導体の構造として選択したジエチルアミノ基、およびN-エチルメチルトルイル基は色素に対し電子移動が起こりうるエネルギー準位、ならびに活性化した破骨細胞が示す低pH環境(4.5~6.0)でプロトン化が起こるpKaを示した。それぞれのアニリン誘導体構造を有するRed-pHocas-1, 2を合成し、蛍光量子収率のpH応答性を評価したところ、ともにpHの低下によって蛍光量子収率の上昇が見られ、設計した通りの物性を示した。また、Red-pHocas-1, 2において光源装置を用いてレーザー光に相当する強い励起光を連続照射後、蛍光強度を測定し光安定性を評価した。その結果、蛍光強度が30分以上の照射後もほとんど維持されており、高い光安定性を有していることを確認した。さらに骨組織のモデルとして利用されるヒドロキシアパタイトにプローブを吸着し、蛍光特性を調べたところ、先述と同様の低pH条件下での蛍光上昇が観察され、開発したプローブが骨組織モデル上でも機能することが明らかとなった。特に、Red-pHocas-2において低pH環境下で大きな蛍光を示し、将来的な破骨細胞のイメージングに応用できる知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、骨組織モデル上で優れた蛍光特性を示したRed-pHocas-2を用いて破骨細胞のプロトンポンプをGFPでラベルしたマウス体内でのin vivoイメージングに着手する。活性化された破骨細胞はプロトンポンプから酸を放出しているため、プロトンポンプの局在と酸性領域を同時に長時間追跡することで、破骨細胞の機能において新たな知見が得られることが期待できる。 また、Red-pHocas類はその高い脂溶性により、in vivoにおける観察において骨組織全体への非特異的な吸着が危惧される。そこで、π電子系を拡張したBODIPYより小さな色素であるローダミンを色素の母骨格として選択し、この色素にpH感受性、ならびにビスフォスフォネート基による骨組織への送達能を付与した新たな蛍光プローブを開発する。ローダミンは光安定性に優れており、本研究で用いる二光子励起顕微鏡を用いた観察に適用できるものと考えられる。ローダミンはキサンテンの9位への分子内スピロ環化反応により、蛍光強度が制御されることが知られている。具体的には閉環状態では蛍光がOFFとなり、開環状態では蛍光がONとなる。低pH環境下で開環反応が起こるようにキサンテン骨格に直結したベンゼン環上のカルボン酸アミドにおいて置換基の検討を行う。蛍光量子収率のpH依存性、ならびに開環、閉環反応の速度について最適化を行い、破骨細胞が示す低pH環境で蛍光を示す赤色蛍光プローブを開発する。開発したプローブを用い、先述のモデルマウスを用いて長時間二光子励起顕微鏡を用いた観察を行う。また、マウスだけでなく、ブタなどの動物を用い、関節炎モデルに対しても個体イメージングが可能となるよう、プローブの合成供給を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度にpH感受性蛍光プローブの開発を行い、破骨細胞の活性化を観測する予定であったが、当初の予測を上回り、光安定性の高い蛍光色素の構造を発見した。そのためプローブの再合成、評価のための追加実験が必要となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
光安定性の高い蛍光色素の構造を有するpH感受性蛍光プローブの追合成、評価、破骨細胞の活性イメージングに必要な物品費及び成果の学会発表に充てる予定である。
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