研究課題/領域番号 |
15K12770
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
藤山 文乃 同志社大学, 脳科学研究科, 教授 (20244022)
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研究分担者 |
苅部 冬紀 同志社大学, 研究開発推進機構, 准教授 (60312279)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大脳基底核 |
研究実績の概要 |
『大脳基底核には運動発現のアクセルとなる直接路およびブレーキとなる間接路という二つの拮抗する経路が存在し、これらのバランスがどちらかに偏ることによって、パーキンソン病の無動やハンチントン舞踏病の過動という病態が生じる』これが現在最も広く受け入れられている従来の大脳基底核スキームである。しかしこのスキームでは、パーキンソン病の「無動」を説明することはできても、「突進歩行」や不随意運動の一つである「振戦」が生じる理由を説明することはできない。 ドーパミンは運動機能や認知機能の調整のみならず学習や報酬系にも深く関与しており、その制御の解明については重要課題である。近年、大脳基底核の淡蒼球外節細胞がドーパミン細胞群である黒質緻密部に投射することが報告されたが、淡蒼球外節のどのニューロンが投射し、どのように作用するかは明らかではなかった。本研究では、PV-Creラットを初めて使用し、淡蒼球外節の中でもパルブアルブミンを持つ細胞だけを赤の蛍光タンパクで可視化することで、神経終末が黒質緻密部の特定の領域に優位に分布することを明らかにした。さらに、淡蒼球外節のパルブアルブミン細胞の活性化によって黒質緻密部のドーパミン細胞が強く抑制されることが電気生理学的に証明された( Oh, Karube et al., Brain Structure and Function, in press) 。 この結果によって、運動や学習における大脳基底核の理解、黒質緻密部の変性疾患であるパーキンソン病の病態への理解の進歩が期待できる。また今後、この独自に発見した回路の詳細を解析し、ドーパミンニューロンをめぐる新しい回路であることを形態学と最先端の電気生理学を融合させた解析手法で証明する予定である。この新たな回路の機能的な証明は真の大脳基底核スキームの確立のみならず、パーキンソン病の治療にも貢献できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた共同研究によるウイルスベクタと遺伝子改変動物の開発をはじめ、実験に必要な具体的技術について順調に軌道に乗ったため、予定通りに形態学的解析および電気生理学的解析を始めることができた。また、研究分担者が同じ研究室に所属しているため、常に綿密な議論を重ねることが可能になっている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度まで、PV-Creラットを使用し、淡蒼球外節の中でもパルブアルブミンを持つ細胞だけを赤の蛍光タンパクで可視化することで、神経終末が黒質緻密部の特定の領域に優位に分布することを明らかにした。さらに、淡蒼球外節のパルブアルブミン細胞の活性化によって黒質緻密部のドーパミン細胞が強く抑制されることが電気生理学的に証明された( Oh, Karube et al., Brain Structure and Function, in press) 。しかし淡蒼球外節から強い抑制を受けるこのドーパミンニューロンが、全体の神経路のなかで、どのような入出力を受けているのかはわかっていない。具体的には、このドーパミンニューロンは線条体のどこに投射しているのか、またこのドーパミンニューロンは淡蒼球外節パルブアルブミン細胞以外にどの場所のどのニューロンから投射を受けるのかという疑問が残っている。今後はウイルスベクターを用いた順行性および逆行性標識実験と電気生理実験および光遺伝学実験を組み合わせ、この「淡蒼球外節から強い抑制を受けるこのドーパミンニューロン」が大脳基底核のなかで、どのような役割をになっているのかを解析していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度開始する予定だったウイルスベクターの実験の一部が、インジェクションのセットアップの関係で次年度に開始することになった。このため、新規のウイルスベクターなど実験に必要な消耗品の購入を次年度に見送ることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度までは淡蒼球外節ニューロンに順行性のウイルスベクターを注入して淡蒼球外節ニューロンから黒質緻密部のドーパミンニューロンへの投射を解析していたが、次年度は逆に黒質緻密部のドーパミンニューロンに逆行性のウイルスベクターを注入してドーパミンニューロンへの入力を調べる必要がある。そのため、逆行性のウイルスベクターを購入する予定である。
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