研究課題
人間社会において暴力は大きな問題となっているが、この暴力行為の引き金となる主な原因に、欲求不満による「苛立ち」がある。本研究はマウスを用いて、苛立ちに関わる神経回路を明らかにすることを目指すものである。これまで、動物を用いた攻撃性研究では、実際の身体的運動としての攻撃行動と、内的状態を切り分けることはできなかった。本研究では、攻撃行動を行っていないが欲求不満が引き起こされる場面において活性が上がり、その活性の程度によって攻撃行動の強度を変化させる領域こそが「苛立ち」に関わる脳領域であると定義し、その神経回路を明らかにしようと試みている。これまで、背側縫線核のグルタミン酸入力がマウスの攻撃行動の程度に関わることを明らかにしてきたが、実際に攻撃行動を行っていない社会的挑発場面においてもグルタミン酸放出が増加していることが明らかとなった。社会的挑発はその後のマウスの攻撃行動を増加させることが知られており、本研究においても社会的挑発によって実際に攻撃行動は増加し、それに伴う背側縫線核内のグルタミン酸放出が更に増加した。このことから、背側縫線核へのグルタミン酸入力が「苛立ち」に関わる入力である可能性が示唆された。オプトジェネティクスを用いて、どの脳領域からのグルタミン酸入力が攻撃行動の増加に関与するのか、そして背側縫線核からどこに投射するニューロンが攻撃行動の増加に関与するのかの検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
オプトジェネティクスを用いた解析から、苛立ちに関わる背側縫線核への投射領域や背側縫線核からの投射領域の同定が進んできている。これらの投射ニューロンの更なる機能解析によって、苛立ちに関わる神経回路の一端が明らかとなると期待される。苛立ちを生み出す他の行動テストの開発についてのみ遅れを取っているが、その他は順調に進んでいる。
オプトジェネティクスを用いて明らかになってきた特定の投射回路について、どのニューロン種であるかの同定や、実際の行動中の神経活動記録などを行うことで、それらの回路が苛立ち状態にどのように関与しているかを明らかにする。また、遺伝的に苛立ちしやすい系統において、この回路の活性がほかの系統と比べて異なるかを検討するとともに、性ホルモンがこの活性にどのように関与するかを明らかにする。
本年度は共同研究のため海外にて研究を行っていた期間が長く、計画した光操作実験と分子生物学的解析実験で用いる消耗品の購入が次年度にずれこむこととなったため、次年度使用額が生じた。
この残額は計画通り光操作実験と分子生物学的実験のための消耗品購入に用いる予定である。加えて、苛立ちを生み出す行動テストの開発にも遅れが生じており、そのテスト作成のための必要部品購入にも用いる。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 8件) 備考 (1件)
Psychoneuroendocrinology
巻: 79 ページ: 20-30
10.1016/j.psyneuen.2017.01.036.
Genes, Brain, and Behavior
巻: 16 ページ: 44-55
10.1111/gbb.12310
http://www.trios.tsukuba.ac.jp/researcher/0000003646