研究課題/領域番号 |
15K12774
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
萩原 明 山梨大学, 総合研究部, 講師 (70402849)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 養育行動 / ネグレクト / 神経回路網 / オキシトシン / ホルモン調節 |
研究実績の概要 |
内容>神経細胞において伝達物質の放出を制御する蛋白質群の一つであるCASTの欠損(KO)マウスでは、離乳率が顕著に低下し不適切な養育傾向が示唆されていた。そのため本研究では、伝達物質の放出制御という観点から、育児放棄に関わる神経回路の特定およびその分子メカニズム解明を目指す。 (行動解析)養育中の母マウスの行動解析から、CAST KOマウスでは巣の中をせわしなく移動し、その結果仔マウスを哺育する時間が有意に低下していることが分かった。(関連因子の探索)母性との関連が深いオキシトシン濃度を測定したところ、視床下部や下垂体組織に含まれるオキシトシン濃度に変化は見られなかったが、血清中に放出されたオキシトシン量に差を見出した。今後、他の神経因子との関連を模索するとともに、オキシトシン放出と養育行動との因果関係の解明を目指す。 意義>本研究は伝達物質放出を制御する蛋白質に着目するという特色があり、得られる成果は育児放棄に関わる新たな神経機構の発見につながることが期待できる。また、モデルマウスを用いた基礎データは、今後育児放棄の対症療法や治療薬の開発が期待される点で極めて意義深い。 重要性>現代社会の問題の一つであるネグレクトのうち、積極的型に大別されるネグレクトは、明確な理由が示されておらずその心境が十分に理解されているとは言い難い。本研究により神経調節因子の放出調節機構の異常が明確な理由がないと考えられていたネグレクトの原因の一つを明らかにすると期待される。その成果は、治療への応用だけでなく、周囲の正しい理解と認識につながり、様々な予防措置等の対策を講ずる基礎データの提供になることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(行動解析)哺育行動の解析から、CAST KOの母マウスは仔マウスへの興味や認識に問題はなく、また仔マウスを清潔にする・哺乳するといった行動も行うことが分かったが、哺育中も頻繁にケージ内を動き回り、結果として哺育時間が有意に低下することが分かった。また、経産マウスでは哺育時間の減少が軽減し、離乳率の低下が抑えられていることも分かった。また、未経産マウスの哺育行動を観察したところ、やはりCAST KOマウスでは仔マウスへの関心が低く、哺育時間も有意に低下するなど、養育行動に異常があることが認められた。 (関連する神経因子の探索)一方、母性と関連が深いホルモンとして血清中に放出されたオキシトシン濃度を測定したところ、若干の差を見出したが、これが哺育行動の大きな差を見出す要因となりうるか、まだ十分な所見が得られていない。そのため、今後も関連が示唆される神経伝達物質を探索し、関連する神経回路網の解明につなげる必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
母性行動の解析ではCAST KOマウスに異常があることが認められたため、今後は養育本能を司る神経機構の解析に焦点を当てていく。血清及び脳組織内に放出されたホルモンをはじめとする神経因子を各種計測し、KOマウスにおいて放出に異常が見られる因子を探索する。さらに、その増減を調節しうる神経回路網を推測し、養育行動の改善につながる分子メカニズムの探索を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本解析では計画的なマウスの交配と継続的な行動解析の必要があるため、実験補助員の人件費を計上していたが、本年度は別の予算で雇用された実験補助員にこれらの実験遂行を依頼することができた。また、本解析で使用したマウス系統は他の解析でも使用していたことから、本解析用に計上していた動物の飼育管理・維持費は次年度の研究費として繰り越すこととした。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究計画に大きな変更はなく、次年度に繰り越した予算も併せて、実験補助員の人件費並びに解析に必要な試薬類及びマウスの飼育・維持費として本年度も引き続き使用していく。
|