会話とは,発話を介して情報を他者と交換し,情報共有をすすめる共同作業である.本研究では実験課題として,会話を介して情報交換しながら交互に一手ずつ駒を動かし迷路のゴールを目指していくゲームを利用した.このゲームでは,個人の知識量とは関係なく,初見の迷路のみに関連した情報が会話として行き交うことで,自然な会話での体を保ちながら,ある程度は統制された会話を被験者に要請することが可能である.被験者はこの課題に4回参加した.課題中の脳活動を二者同時記録fMRI装置により記録解析した結果,自分が会話を主導する場合(SELF条件)と,パートナーが会話を主導する場合(OTHER条件)とでは,上側頭回や前頭前野,側頭頭頂接合部,そして小脳といったいわゆる「社会脳」領域の賦活パタンが異なることを明らかにした.二者が会話を介して結びつく強さの指標として,会話中の顔の動きのビデオ画像から,口の動き情報を抽出して赤池因果性解析をおこなった.その結果,SELF条件はOTHER条件と比較して他者の会話から強く影響を受けること,また実験への参加回数が増えるにつれて,相手から受ける影響量が増加することを明らかにした.この結果は,会話とは他の共同作業と同様,学習可能な社会的スキルであり,スキル習得には社会脳領域が深く関与している可能性を示す. この手法を,より一般的な多者会話場面へと拡張するため,3台のMRI内にいる被験者が会話している際の脳活動を同時に記録できる系の確立を試みた.3者の発話を拾うマイクの信号を,ネットワーク越しのチャットソフトに入力することで,音声情報のみであるが3者の会話は実現できた.研究棟地下に設置された2台の3テスラMRI装置と,別棟にある7テスラMRI装置との間の同期接続はLAN経由でTTL信号を転送可能な装置を利用し,三台の同期駆動を実現した.
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