研究課題/領域番号 |
15K12778
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
中陦 克己 近畿大学, 医学部, 講師 (60270485)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 歩行 / 姿勢 / サル / 単一神経細胞活動 / 一次運動野 / 補足運動野 / トレッドミル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は大脳皮質-大脳基底核ループ回路における二足歩行制御機序の実験的解明である。平成27年度では当初の計画に従って、トレッドミル上で四足歩行と二足歩行を交互に遂行するサルを対象に大脳皮質・運動関連領野からの単一神経細胞活動記録実験を開始した。現在までに得られた一次運動野と補足運動野の結果を以下に要約する。 一次運動野と補足運動野の体幹・下肢領域から記録された神経細胞の殆どは、四足歩行と二足歩行の両者、或いはそのどちらかに対して課題関連活動を示した。課題関連活動を示す細胞は一般に記録半球の対側下肢の歩行周期に伴って相動的に活動し、歩容が四足から二足に変換されると歩行周期中の平均発火頻度を増加させた。 一次運動野で観察された相動的活動の多くは一相性で二相性のものは少なかった。二足歩行中の相動的活動では、その振幅は四足歩行中に比べて有意に増大したが期間の延長は認められなかった。そのピークの時期は、あたかも一脚支持期を避けるかのように歩行周期内に分布した。 一方の補足運動野では一相性と二相性の相動的活動が等しい頻度で観察された。二足歩行中の一相性の活動では、その振幅は四足歩行に比べて有意に増大し、期間も延長した。そのピークの時期は一脚支持期を中心とする着地相に分布した。二相性の活動は遊脚相から着地相にわたる緩徐なもので、二つのピークは逆位相の関係を示した。このような二相性の活動は主に二足歩行中に観察された。 以上の結果は大脳基底核と運動ループを構成する一次運動野と補足運動野が歩行制御の異なる側面を担うことを示唆しており、一次運動野は肢の律動的運動のオン・ライン調節に寄与し、補足運動野は体幹・下肢運動における左右間の協調的制御に寄与する可能性を示唆する。サルの皮質運動領野に備わるこれらの分担的歩行制御機能は、ヒト前頭葉性歩行障害の病態を説明し得る神経基盤として提出できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では当初の実験計画に従って、歩行学習を修了したサルに対して頭部固定具の頭蓋装着術と筋電図記録用ワイヤ電極の慢性埋め込み手術、記録用チェンバーの頭蓋固定手術を順次行った。そして一次運動野と補足運動野からの単一神経細胞活動記録実験を開始した。前述したように現段階で得られている結果から既に、大脳皮質運動領野における分担的歩行制御機序の実態が明らかになってきている。さらにこの記録実験に平行して、動物の不測の疾病・事故に備えるために歩行課題未学習のサルの訓練も計画通りに行った。しかしながら現在、一次運動野と補足運動野からの記録はまだ完了しておらず、若干の追加実験を行う必要がある。 以上の理由から「おおむね順調に進展している。」の区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では前年度の記録実験に引き続き、同じサルの背側運動前野と淡蒼球内節に対して記録実験を行い、全ての記録実験を平成29年度前半までに終了したい。そして平成29年度の後半において、記録実験を全て終了したサルを対象として抑制性薬物注入実験を行う。薬物には抑制性神経伝達物質GABA-Aのアゴニスト(ムシモル)を用いて、記録を行った各脳領域の片側あるいは両側に微量注入する。そして薬物注入後に生じる歩行障害の特徴から、各脳領域が担う分担的歩行制御機能を明らかにしたい。
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