平成29年度では既存の実験記録系にモーションキャプチャシステムを新たに導入し、二足歩行と四足歩行を交互に行うニホンザルにおいて大脳の単一ニューロン活動と四肢・体幹の筋活動を同時記録した。さらにサルの体分節別の重量を計測した。得られたニューロン・筋活動と運動学的データの解析から次の二つの成果を得た。 1.二足歩行に際してサルは左下肢と右下肢の律動的運動に合わせて、重力を利用しながら体幹を左右・前方へと周期的に傾斜させた(律動的肢運動と動的体幹姿勢の協調)。このような協調的全身運動に伴ってサルの重心の描く軌跡は、ヒトの二足歩行における重心の軌跡に極めて類似した。一方、二足歩行の一周期は左足と右足の間で体幹荷重の受け渡しをする二脚支持期と、左足または右足のみで体幹荷重を支える一脚支持期に分けられる。重心の軌跡と皮質ニューロンの活動様式を併せて考慮すると、二脚支持期にニューロン活動を増強する一次運動野は左右下肢間での重心の受け渡しに寄与することが示唆された。対して一脚支持期にニューロン活動を増強する、或いは体幹筋活動に類似したニューロン活動を示す補足運動野は直立姿勢での重心の保持に寄与することが示唆された。 2.背側運動前野から記録されたニューロンの殆どは、一次運動野・補足運動野のニューロンや体幹・四肢筋群の活動と同様に、歩行周期に一致して相動的に活動した。しかし背側運動前野では、①四足歩行中に比べて二足歩行中での活動を減弱するニューロンが多い点、②相動的活動の位相を四足歩行中と二足歩行中で一致させるニューロンが多い点で、一次運動野や補足運動野とは大きく異なる特徴が示された。 背側運動前野における歩行制御機能の解明には更なる解析を要するが、以上の成果は大脳皮質運動領野における分担的歩行指令生成様式の理解を大きく深化させるものであり、前頭葉性歩行障害の病態解明に貢献するものと考えられる。
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