研究課題/領域番号 |
15K12782
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
足立 享祐 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (70626324)
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研究分担者 |
小川 道大 金沢大学, 国際基幹教育院, 准教授 (30712567)
井田 克征 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 客員研究員 (60595437)
松尾 瑞穂 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 准教授 (80583608)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インド / カースト集団 / マハーラーシュトラ / マラーティー語 / 家族史 / インド学 / 社会経済史 / 文化人類学 |
研究実績の概要 |
「カースト」は古来より不変のものであったわけではない。各カースト集団は各時代において現地諸語で記された様々な情報資源を拠り所としつつ、自らのアイデンティティを構築し、現状の擁護・承認、あるいは異議申立の要求を行ってきた。本研究は上記の視角から、インド・マハーラーシュトラ地域における集団意識と社会秩序の再編を明らかにすることを目指している。 二年度目は研究計画に沿いつつ、同一資料群を対象とする学際的・多領域融合的な共同研究を実施した。調査対象としたのはマハーラーシュトラ州公文書館プネー分館所蔵のマラーティー語で執筆された「家族史」文献である。足立享祐は歴史学・書誌学的観点からその記述様式、刊行形態、ならびに文書館での保存状況について、小川道大は社会経済史的観点から、家産相続と村落空間について、松尾瑞穂は人類学的・ジェンダー研究的観点から同族集団ネットワークおよびその内部での女性の位置について調査を開始した。共同研究は三年目にかけて継続して実施される予定である。 プロジェクトはマハーラーシュトラ地域研究を行う若手研究者の高度な連携に基づき運営されている。二年度目においてはマハール研究プロジェクト(研究代表者・小川道大)の成果が『マハーラーシュトラ州におけるダリトの実像ーその社会的・歴史的多様性』(龍谷大学南アジア研究センター)として刊行された。また 学術振興会二国間交流事業「近代マハーラーシュトラにおけるカースト観の構築」(研究代表者・松尾瑞穂)と連携しつつ、インド・プネー大学で国際会議を実施した。足立がカースト族譜、小川がワタン文書、松尾が女性雑誌を資料としつつ、近代マハーラーシュトラにおけるカースト観の構築についてそれぞれ報告し、現地研究者からのレビューを受けるとともに、インド側の研究についてそれぞれコメントを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二年度目の目標は、研究代表者・研究分担者が「相関プロジェクト」を通じて、各分野の隣接領域を共同で研究しながら、最終年度で追求される「中核プロジェクト」となる研究課題全体の立体化を準備するものであった。 二年度目には、足立、小川、松尾によるマハーラーシュトラ州での現地共同調査を実施した。従来の個人研究では見過ごしていた資料について、異なる学問的視点を重ね合わせる作業を通じて、その新たな重要性を見いだしつつある。具体的にはマハーラーシュトラ州公文書館プネー分館に保存されている家族史文献があげられる。同資料は同館に所蔵されているモーディー文書の補助的役割にとどまるものであったが、集団意識の発露の観点から、それ自体が研究の対象となるべきことが明らかになった。これらの家族史文献については研究代表者・研究分担者が協力しつつ三年度目にかけてより詳細な調査を行っていく予定である。 初年度の研究成果については順調に形になりつつある。RINDASプロシーディングス『マハーラーシュトラ州におけるダリトの実像ーその社会的・歴史的多様性』(龍谷大学南アジア研究センター)が2017年3月に刊行され、本研究課題のメンバー五名の報告が掲載された。また同月には二国間交流事業と連携してインド・プネー大学で初年度の研究成果について報告を行い、現地研究者からのレビューを受けることが出来た。 学際的研究・共同研究として必要な研究者間の緊密な連携体制は引き続き維持されている。複数回のオンライン会議に加え、研究会合、ならびに現地共同調査が実施された。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である三年度目は「中核プロジェクト」として挑戦的萌芽研究としての総括を行う。二年度目の共同調査で得られた知見に基づき、マハーラーシュトラにおける集団意識の形成について、近代マハーラーシュトラにおける家族史文献の出版の増加という歴史的事象を中心に、研究代表者・研究分担者がそれぞれの学問分野から問題に取り組む。 別けても対象となる集団は"kula vrittanta"と呼ばれる家族史文献を大量に残したブラーフマンである。これらの文献を用いつつ、家族という単位がカースト集団へと変容していく過程を、それぞれを結合させていく神話的言説、家産相続、言語空間、婚姻関係の観点から研究する。 このため研究代表者の足立がマハーラーシュトラ州公文書館プネー分館での家族史文献の所蔵調査を集中的に実施する。マラーティー語圏におけるこれらの資料の全体像については、未だ明らかにされていない。作成した所蔵目録はデータ形式に変換し州公文書館プネー分館と共有することで成果を現地社会へと還元する予定である。 調査資料を研究分担者とオンライン上で情報共有することで、同一資料の学際的研究を進めていく体制を継続する。研究成果については、二国間交流事業「近代マハーラーシュトラにおけるカースト観の構築」(研究代表者・松尾瑞穂)と連携しつつ、2017年度末にインド・プネー大学において国際会議を実施し報告する予定である。当該国際会議には研究代表者および分担者全員が参加する予定である。また2016年度国際会議についても国際会議録を作成、出版する計画を平行して進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
二年度目の予備調査及び現地共同調査を通じて、マハーラーシュトラ州公文書館プネー分館の集中的調査が必要であることが判明した。そのため二年度目の助成金の一部を三年度目に繰り越し、三年度目に再度、海外調査を実施することとした。二年度目に実施する研究報告は、学術振興会二国間交流事業と連携し、国際会議を行うことでこれを代替した。
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次年度使用額の使用計画 |
三年度目にマハーラーシュトラ州公文書館プネー分館を中心に家族史文献の所蔵調査を実施する。同時にインド国内外でのカースト関連文献の調査・収集を行う。これらの資料情報はオンラインストレージを通じて研究分担者間で共有するとともに、国内で研究会を開催する。
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