研究課題
フィールド調査としてはインドネシアのロンボク島とスンバ島におけるニャレとそれにまつわる祭りに関する研究を継続したほか、新たに日本の福岡県大川市におけるゴカイ科イトメとその漁を対象とした。ニャレに比べれば、イトメ漁はこれまでにほとんど研究がされていない貴重な生業活動であった。ただしイトメは食用ではなく、あくまで漁業の餌として用いられる。調査項目の(1)生存としては、生殖群泳を行うイトメを採集し、栄養成分を分析し、先行研究におけるニャレ等との比較を行った。その結果、たんぱく質が豊富であることや、いくつかの微量栄養素が良好であることなど、食品としての価値はニャレあるいは他の海産資源と同様に優秀であることが示唆された。また、食味試験の結果、味も良好であった。なお、イトメと同族異種のゴカイ科生物はベトナムの一部では薬用・食用の高級品である。(2)文化としては、ロンボク島とスンバ島におけるニャレ出現日の関係をかなりの精度で特定することができるほどに、在来暦法の理解が進んだ。またスンバ島では、ニャレが神聖であるのに、出現しては「ならない」という社会における祭りとその意義について研究を行った。全体として、ニャレ出現の有無が田植え時期などの重要な季節決定と関係しており、この生物時計が農耕暦法として利用され、そのチェックポイントとしての祭りが重要であると推察している。(3)楽しみとしては、味や文化的愛着に加えて、祭りや年に数回だけの採集という非日常的な喜びが共通して見られたと考えている。これらを通して、人類の食料選択を理解するためには栄養素としての価値だけではなく、文化や楽しみが重要であることを提示した。
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