本研究では、急激に起こることが予想されているアフリカでの高齢化に対して、現状の人々の生活状況把握のために、特に農村部の女性にターゲットを当てながら、人類学的な調査研究を行った。特徴としては、農村への女性のインタビューや参与観察といったフィールドワークを行う一方で、ライフコーダという生活習慣測定器を用い、運動量や歩数、強度などを測る量的な調査を並行して行い、女性たちの生活を質的・量的に分析することを試みた点であった。
本研究の対象地域は、東アフリカ・ケニアのクワレ・カウンティという海岸部の農村と、キシイ・カウンティというケニア西部の内陸の農村の二つのエリアであった。クワレの方は、現地で行われているHDSS(Health Demographic Surveillance System: 人口動態登録システム)をベースに行ったため、約30名の高齢女性(60歳以上)にスムーズにアクセスできた。またライフフコーダについてもデータ収集を行うことができた。しかしキシイの方は調査許可書取得に時間がかかり、ライフコーダについても当初予定していた数(30名)よりも少ない数となり、データ収集や分析はクワレを中心に行った。
これまでケニアでは、特に農村においては伝統的には家族が高齢者のケアをすると考えられていた。しかし今回の調査からは、近年の都市化や出稼ぎなどの社会現象もあり、独居状態にある高齢者や、物理的や経済的なサポートがないなどのケースもあった。また認知症や寝たきりなどの高齢者も存在するが、公的なケアや家族へのサポートなどは皆無である。ケニアでは2017年より全国に高齢者への年金支給が始められることとなったが、その情報も地方の農村には行きわたっていないなど、情報アクセスの課題も明らかとなった。これら調査結果は、論文や国際学会で発表された。
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