研究課題/領域番号 |
15K12790
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
岡本 由美子 同志社大学, 政策学部, 教授 (00273805)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イノベーション・システム / 産業政策 / グローバル・バリュー・チェーン / 伝統産業 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、まず、開発におけるイノベーション・システム構築の重要性を探るべく、進化経済学に基くイノベーション・システム論の文献サーベイを行った。経済がグローバル化したからといって途上国の開発問題がなくなるわけではなく、時代にあった産業政策が必要であるが、そのためには、イノベーション・システム論の枠組みが非常に有益であることが明らかとなり、1つの論文にまとめた。その研究成果は平成27年度3月末に出版された、同志社大学大学院総合政策科学研究科編『総合政策科学の現在』の論文集に掲載された。 また、ミャンマーの個別産業の研究に入る前に、ミャンマーを含めたアジア太平洋地域全体の成長見通しを、イノベーション・システム論の観点から分析を行った。その結果、東南アジアはシンガポールを除き中所得国の罠に陥ってしまっている可能性があり、イノベーション・システムの構築が急がれることがわかった。この研究成果は、平成28年度1月にマニラで開催された、東西センター国際会議で発表された。現在、雑誌論文として投稿中である。 さらに、ミャンマーの個別産業の研究では、ミャンマー独自の伝統的な技術・技法を活かして成長が見られる、漆器産業及び農業・食品加工の中でも成長が著しいコーヒー産業(コーヒーといった農産物の生産から、加工、販売を含めたバリュー・チェーン全体)の海外現地調査を行い、その成長の可能性と今後の課題についてまとめた。ミャンマーのコーヒー産業はこれまで世界では全く知られていなかったが、数年間の間に急成長を遂げ、現在、更なる成長が期待されている産業の1つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定をしていた、進化経済学に依拠したイノベーション・システム論に関する先行研究(文献サーベイ)は研究計画書通りに進展し、研究成果の一部はすでに共著書ではあるが、1つの論文として発表された。 当初の研究計画では明らかではなかったが、ミャンマー、及び、ミャンマーを取り巻くアジア太平洋地域、とりわけ東南アジア諸国のイノベーション能力と成長課題についてもまとめた。東南アジア諸国先発国の事例は、ミャンマーにも大いに参考になると考えられるからである。外資主導で経済発展を遂げてきた多くの東南アジア諸国が中所得国の罠に陥っている可能性が見出され、本研究課題が目指す、その国の伝統的技術や知識を大いに活かす産業の発展の重要性を改めて見出すことができた。 さらに、ミャンマー独自の技術・技法を駆使した漆器産業、及び、ミャンマーの伝統的農法である有機農法を踏襲して生産されたコーヒーとその精製加工(すべてのバリュー・チェーン)についても現地調査を行い、ある一定の成果を得る事ができた。食品加工産業は非常に幅が広く、現在、世界で注目を集めつつあるミャンマーのコーヒー産業に焦点を絞ることになった。 ただし、予算と日程の関係で、マンダレー近郊の伝統産業の調査は行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は予定通り、シャン州(少数民族が中心となっている地域)を中心に、伝統的産業・技術を活かした産業の発展の可能性を、イノベーション・システム論の観点から行う。ただし、シャン州ではインレー湖のみならず、平成27年度の調査で明らかになったように、ミャンマーで現在最も注目を集めているコーヒー産業をさらに調査するため、同州のユワンガン地域も研究対象とする。 インレー湖及びその周辺では、伝統的技術・技法を用いた産業とそこでの主なアクターの特定化、2011年以降の民主化・グローバル化による変化、及び、それを取り巻く環境(イノベーション・システム)の有無を調査し、ミャンマーにおけるこれら産業の発展の可能性と政策的課題について明らかにする。 さらに、シャン州のコーヒー生産地の1つであるユワンガン地域において、コーヒー産業勃興の実態、アクターの特定化とその発展プロセスを明らかにし、伝統的技術・技法を用いた産業(ミャンマーの伝統的な有機農法を踏襲した産業)の今後の成長の可能性と政策的課題を明らかにする。
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