研究実績の概要 |
本研究は、五感を通じた災害の伝承と、それを支える社会的ネットワークの2視点から、被災地の復興に寄与するユニバーサルツーリズムを開発、実践し、その効果を検証することを目的とした。まず、被災地ツーリズムの現状と課題を明らかにするため、自然災害(主に震災)、人的災害(戦災、公害)に関するスタディツアーおよび博物館等の調査を行い課題を整理した。またユニバーサルツーリズムの先進地である神戸、沖縄等の取り組みを調査し、ユニバーサル・ツーリズムが定着していくための4つの要因(社会的意義、戦略的機会、利用者ニーズ、地域課題)を明らかにした。 これらと並行して、福島県いわき市をモデル地区に地元のNPO,観光事業者、医療機関、ボランティアなどで構成される検討会を設立し、6回にわたる討議を経て多様な主体の間組織的なプラットフォームを構築した。被災地を災害の時点のみで考えるのではなく、過去、現在、未来という時間軸を取り入れ、手学問やバリアフリー観点から、ユニバーサルツアーを3回企画、実施し、多様な主体の協働によるツーリズムの効果検証を行った。その結果、ユニバーサルツーリズムは、不特定多数を対象としたユニバーサルデザインの対応と、個々のニーズに対応した合理的な配慮、そしてマイノリティの視点から新たな付加価値を創ることの3つのアプローチが必要であることが明らかとなった。特に手学問を援用して、「さわる」アプローチを取り入れることで、地域の資源や文化の本質の再発見につながることが明らかになった。一方、視覚障害者と車いす使用者といった異なる障害による合理的な配慮の相違点など、ユニバーサルツーリズムの定義の再検討の必要性が課題として残った。
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