研究課題/領域番号 |
15K12800
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
佐野 直子 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (30326160)
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研究分担者 |
浜本 篤史 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (80457928)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 聞き書き / 地域おこし / 着地型ツーリズム / オーラルアーカイブ |
研究実績の概要 |
平成27年度は、国内外での「聞き書き」実践の状況の視察・調査と、中心的なフィールドである高浜市での実践活動を行った。 国内外の状況の視察については、佐野がフランス・ドルドーニュ川流域において、1930年代から50年代にかけて発電ダムが数多く建設された地域住民の生活の変化、立ち退きの経緯などについて聞き書きを行う「100人の証人」プロジェクトを実施し、現在聞き取りを終えてその成果の書籍刊行、公文書館での保存のみならず、地域のダイナミズムを喚起する方法として活用を模索している人類学者アルメル・フォール氏とともに、当該フィールドであるドルドーニュ川流域を視察し、インタビュアーへの聞き取り調査を行った。また、フランス北部のもと繊維工場を博物館として保存し、そこで繊維産業に従事していた人々の聞き取りをビデオアーカイブとして放映するプロジェクトなどを視察した。 10-11月にかけてはフォール氏が来日し(名古屋市立大学客員研究員招聘制度にて招聘)、その際に東北大学での東アジア国際環境社会学会で浜本・フォール氏がダム建設における記憶の保存の問題について発表し、また、佐野・浜本にフォール氏も同行して、奥会津における中学生への「聞き書き」実践を行っている地域・関係諸団体を視察した。 高浜市の実践活動は、高浜市が企画する「タカハマ!まるごと宝箱」プロジェクトや高浜市かわら美術館と連携して、高浜市のかわら産業に従事してきた方々12名への聞き書きを行い、それをまとめた冊子を高浜市から刊行した。その過程で、6月に高浜市民有志の方々による学生との勉強会、11月7日にかわら美術館にて聞き書きについての中間発表とフォール氏の講演に基づく「聞き書き+かわら」シンポジウム、3月19日にかわら美術館にてその冊子の完成を高浜市民に報告する「冊子完成おひろめ会」を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にすでに「聞き書き」を実践し、その成果物としての冊子を高浜市の監修のもとで刊行できたことは大きな成果である。 また、「聞き書き」冊子編集刊行の過程で、かわら美術館での勉強会開催、高浜市の「タカハマ!まるごと宝箱」の諸活動への参加、語り手となってくださる方の選定とその過程でのネットワークの構築、フランスにて聞き書き調査とその保存・活用を実践している人類学者アルメル・フォール氏を講師とした高浜市かわら美術館での2015年11月7日のシンポジウムや、2016年3月19日にやはりかわら美術館で開催した「冊子完成おひろめ会」「高浜市しあわせづくり会議」などで、高浜市民の方々、高浜市長や市会議員、かわら美術館館員、高浜観光協会会長などと直接お会いして議論し、来年度からのさらなる高浜市民と議論・活動をおこなうための基盤を築くことができた。 また、国内外の「聞き書き」の状況については、フランスにおける聞き書きの事例の調査現場(ドルドーニュ川流域・フランス北部産業遺産アーカイブ化事業など)の視察と申請者自身の調査、奥会津の事例の視察(フォール氏も同行)などで、多様な実践と、実践後の保存活用の目的や課題などについて議論・確認し、来年度の高浜市での実践にも活かせる知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の実践は大学側の作業が中心であったが、今年度は特に高浜市民を中心とした「聞き書き」の実施や、冊子の刊行後の活用などについて、さらなる議論の場を設け、住民参加型の「聞き書き」手法の開発について取り組む。 高浜市では、今年度から高浜市史編纂に着手する予定であり、また、高浜市が主催する「タカハマ!まるごと宝箱」プロジェクトの継続、「しあわせづくり計画」の「やってみよMyプロジェクト」へのリニューアル、また、かわら美術館の住民参加型企画の立ち上げなど、本研究が参画・連携しやすいプロジェクトが着手される予定である。それらの企画会議や実践への参与観察や議論を行う。また、すでに高浜市内で実践されてきた聞き書き記録があるとの情報も得たので、それらの掘り起こしとその活用、その時点での「聞き書き」の手法などについての議論も行う。 国内外において、「聞き書き」実践の事例は多く、その効用の幅広さから今後も実践例はますます増加していくと思われるが、実践者間の連携やネットワーク作りは遅れているのが現状である。そのため、今年度は、実践者との交流も意識した事例研究を行いたい。具体的には、東京の「聞き書き甲子園」事務局や山梨県の「日本ライフヒストリー研究所」など、すでに一定の成果を蓄積している団体への視察や、奄美諸島、フランスの産業遺産や戦争の記憶の保存活動、イタリア山間部のエコミュージアム活動の視察などが挙げられる。
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