我が国の医療倫理教育は、抽象的な倫理概念、原則を教科書や講義で学び、その臨床現場での具体的応用例として事例のエッセンスをケーススタディや視聴覚教材を用いて学ぶという方法が主流である。そういった学習を経た一部の医療者は、臨床現場で医師、看護師らが生の事実に対して具体的に医療倫理をどのように実践しているかを目の当たりにしながら、医療専門職としての倫理を身に付けている。しかし人々の健康問題を解決するという高い志と意欲を持った医療専門職が一定の時間をかけて知識と経験を積み上げ、医療チーム内の人格的な影響を受けながらでなければこのような教育手法は継承されにくい。また、臨床で必要とされる問題解決能力は一方向型教育の講義で養うことは不可能である。 このような問題意識に基づき、本研究は学習者自らが医療ケアの提供者として専門的知識を具体的事実に適用し応用し、疑似的な社会関係の中で医療専門職としてのコミュニケーション能力を高め、自らが医療ケアの提供者として倫理的に困難な場面に直面し、人間的な判断を求められるという疑似体験を通し、机上の学習では獲得しにくい倫理をより深く悩み抜くことのできる体験型シミュレーション教育・専門職責任教育プログラムの開発を目指すことであった。 最終年度である本年は、海外研究協力者とのワークショップにおいて、実際の医療倫理シミュレーションを行い、医療倫理教育におけるシミュレーションの利点を明らかにした上で、授業に活用可能な医療倫理シミュレーションプログラムを構築した。
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