研究課題/領域番号 |
15K12809
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
宮島 光志 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 教授 (90229857)
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研究分担者 |
津田 雅夫 岐阜大学, 地域科学部, 名誉教授 (10144099)
李 彩華 名古屋経済大学, 経営学部, 教授 (10310583)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 近代日本哲学 / 哲学辞典 / アカデミズム / 出版文化 / 桑木厳翼 |
研究実績の概要 |
挑戦的萌芽研究の初年度ということもあり、本年度は一方で研究メンバーが互いに問題意識を共有し、他方でメンバー各自が自由な発想に立って研究を推進できる体制づくりに力を注いだ。具体的には、9月末に富山市で2泊3日の研究合宿を実施し、研究代表者による全体計画の概要説明を承けて、他のメンバー全員(7名)が各自の研究について現状と将来的な展望について報告し、研究全体の方向性について議論を行った。 次いで10月以降には、研究代表者の宮島が『哲学大辞書』の検索可能PDF化に着手し、まずは追加分冊の一部についてPDF化の技術的問題を検討し、併せて検索機能の効果を実証した。その結果、同書のPDF化は比較的容易であり、検索の省力化と正確性という点で多大の効果が見込まれることが明らかとなった。なお、それに先立って研究協力者の川合大輔は同辞典の教育学関連項目を独自の基準でリストアップして吟味検討し、掲載項目を精査するための「川合モデル」を提示した。 それらの成果を踏まえて、1月以降には、次年度(事業2年目)の研究活動を具体的に方向づけるために、日中共同研究の窓口である中華日本哲学会(郭連友副会長)と連絡を取り合って(研究分担者・李彩華の尽力による)、国際シンポジウムの立案を行った。その結果、2016年10月1日に厦門大学を会場として、名古屋哲学研究会・中華日本哲学会・厦門大学の共同開催による国際シンポジウム「東アジアにおける近代哲学の生成と展開~〈人文知の制度化〉の観点から~」を開催する段取りが整った。 さらに2月以降の成果としては、代表者の宮島が本研究課題に係るホームページ開設の準備を始め、その本格的な運用に向けて第一歩を踏み出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の自己評価をした根拠として筆頭に挙げるべき成果は、本研究全体の中核をなす国際シンポジウム「東アジアにおける近代哲学の生成と展開~〈人文知の制度化〉の観点から~」の開催準備が軌道に乗ったことである。なお、交渉の過程で、主に中国側受入れ機関からの要望により、開催地を当初の瀋陽から厦門に変更することになった。それにともない、開催経費および開催日程を抜本的に見直す必要に迫られたが、首尾よくこの難題を乗り切ることができた。 また具体的な研究内容については、特に「開催趣旨」の文案(研究代表者の宮島が執筆)の中で、「近代日本哲学における〈知の制度化〉」という問題圏を包括的に輪郭づけた。その一節を引用すれば、「〈人文知の制度化〉が最も広範に推進されたのは、「知への愛」を原義とする哲学の分野にほかならなかった。例えば明治中期以降に出版制度が広く社会に浸透した結果、哲学辞典の編纂、哲学叢書の企画、翻訳書や教科書、学会誌や商業雑誌などが刊行されるようになった。〔中略〕このように〈人文知の制度化〉とは、哲学の研究教育に関わる「人材や手段」を新たに組織化ないし体系化する活動(基盤整備)であり、そうした制度的な枠組みの中で人文知に関わる情報交換と人的交流が活性化したのである」。本研究はこうした理解に立って、今後の具体的な展開を方向づけるに至った。 そして個別的な研究成果については、すでに研究メンバーのうち数名が研究成果の一端を公表するに至った。特に若手の川合大輔が案出した、『哲学大辞書』の特定分野に関する項目を整理分類する方法論(川合モデル)は汎用性があり、今後の応用が期待される。同じく若手の三谷竜彦は、美学・芸術学分野について同様の調査検討を推進中である。 これらの理由から、挑戦的萌芽研究の初年度としては、研究全体の進展が「おおむね順調」であったと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(平成28年度)に推進すべき事業は、中国で開催される国際シンポジウム「東アジアにおける近代哲学の生成と展開~〈人文知の制度化〉の観点から~」を当初の目論見どおりに成功させて、その具体的な成果を日中両国において、できるだけ広く社会に還元することである。ちなみに、「開催趣旨」を説明した「招聘状」は次のように結ばれている。―「当初は近代以前の各種制度を再編し、新たな〈知の地平〉を創出する動的な生成プロセスであった〈人文知の制度化〉が、今日では逆に硬直化し、危機に瀕しているのである。このシンポジウムの狙いは、中国文化の多様な相貌を今日に伝える厦門の地に日中両国の日本哲学研究者が相集い、〈人文知の制度化〉について歴史的な認識を深める中で、東アジア全体の視点から「人文知の危機」を克服する手掛りを探ることにある。」 このシンポジウムを起点としてその延長線上で、まずは日中の共同研究体制をより強固なものに発展させて、さらに包括的‐組織的な国際研究プロジェクトにつなげてゆく可能性を模索したいと念じている。 他方でまた、より地道な取り組みとしては、本研究課題に係るホームページを本格的に運営し、その都度の研究成果をより広範かつ厳密に情報発信することが望まれる。そのことにより研究メンバー相互の連携と協力体制をより強固なものにするだけでなく、人文社会科学の諸方面から本研究に対して積極的に関心を持ってもらえるものと期待される。 なお、最後に付言するならば、(名古屋研究会・日本思想史部会を母体とする)本研究グループのメンバーが各々の研究成果を独立した論考にまとめ上げ、それらを総合して明治大正期の哲学思想に関する1書を編むことも、具体的に検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
日中共催による国際シンポジウムの開催地が、主に中国側からの要望により、当初の予定地である瀋陽から(より遠隔地で日本からのアクセスも限定された)厦門に変更されたことにともない、日本側参加者(8名)の旅程が大幅に見直されることになり、最終的に海外旅費と開催経費を中心とする出費が増大したことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由から、最終年度分を一定額(20万円)前倒しすることにより、当初の予定に見合った規模の国際シンポジウムを厦門大学で開催する運びとなった。 ただし、最終年度については、残額が些少(40万円)となるため、研究合宿の規模を縮小することで旅費を圧縮する、アルバイト代(PC入力など)をカットするなど、遣り繰りを工夫した上で最終成果の取りまとめを行うことになる。
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備考 |
中華日本哲学会ホームページ。名古屋哲学研究会・中華日本哲学会・厦門大学(共同開催)国際シンポジウム「東アジアにおける近代哲学の生成と展開~〈人文知の制度化〉の観点から~」「招聘状」兼「開催趣旨」(同学会 秘書処 2016.4.6)。なお、「開催趣旨」の文案は、日本側の研究代表者である宮島が作成した。
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