研究実績の概要 |
知覚をテーマとして設定して,西洋哲学・インド哲学・認知科学の分断横断的な対話の場を構築することを目指す本研究では,2017年3月4日に信州大学において,昨年度に引き続き第2回ワークショップ「知覚の比較哲学」を開催し,次のような成果を得た。 1. 護山(研究代表者)の他,片岡啓(九州大学),三代舞(早稲田大学)の三者により,仏教認識論における自己認識(svasamvedana)について,(1)それが無我を説く仏教における主観性の確立の問題と結びつくこと,また,(2)その思想史的展開において「把握」という能動的なメタファーから「輝き」という自己照出のメタファーへと移行したことが分かること,(3)自己認識をはじめとする知覚経験一般において,その前提となる反復経験が重要な役目を担っていること,などが確認された。 2. これに対して,西洋哲学の側からは,小川祐輔(筑波大学),呉羽真(京都大学),三谷(分担研究者)の三者が研究報告を行い,(1)ディヴィドソニアンから見た自己知論の展開,(2)デューイにおける経験の理論とその射程,(3)知覚の言語表現と関連する西田の場所の論理について,それぞれの知見を示した。 3. ただし,これにより分野横断的な議論の場を用意することには成功したものの,それぞれの研究をフィードバックして,自らの研究に反映させていくというところまでは,議論が熟さなかった点は反省される。 また,護山は,以下の二つの学会・国際ワークショップにおいて本研究の成果を発表した。比較思想学会(6月,関西大学)では,仏教認識論の議論をエナクティブ主義の観点から読み直すことの意義を明らかにした。また,神の全知と実在論/反実在論をめぐる国際ワークショップ(3月,ハワイ大学)では,神の全知と時間認識,ブッダの全知と時間認識をめぐるインド哲学の議論を分析し,ダメットの見解との比較を行った。
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