本研究は、美術作品の詳細な分析を中心とした美術史的研究と、豊富な文献資料を扱う仏教学のそれぞれの長所を生かし、相互の研究成果をデータベースの形に整理し有効に利用することで、画期的な研究環境を生み出すことを目的とする。 最終年度にあたる今年度は、日本の仏教美術を中心にデータベース化を進めた。国内で開催された過去の主要な展覧会の図録をもとに、掲載された作品のメタデータをデータベース化した。研究代表者が過去において収集した画像データにこれらの図録所載の画像データを統合し、それぞれのメタデータや、前年度まで取り組んできた文献資料のデータにもリンクさせた。これによって、特定の作品の基本的情報を一元的に管理することが可能となった。このうち、整理を終えた画像データで、著作権上の問題のないデータについては、メタデータを含め、インターネット上で順次、公開を進めている(「アジア図像集成」Asian Iconographic Resources http://air-p.jp)。これをモデルにして、インド、チベット、ネパール、中国などの主要な作品についても、総合的な情報プラットフォームへの統合を順次進めた。 具体的な研究成果としては、仏教の中の女神信仰をあつかった『仏教の女神たち』(春秋社)において、インドから中国、日本にかけて伝播した密教の仏の中で、女性の姿を取る尊格を取りあげ、その図像的な特徴や文化史的背景を明らかにした。それぞれの尊格の図像学的特徴を抽出するために、本研究の情報データベースが活用された。また、チベット美術の歴史的展開の概説として、『アジア仏教美術論集 中央アジアII チベット』(中央公論美術出版)に総論「チベットの美術」を発表したが、そこにおいも本プロジェクトによって整備された研究基盤が有効に機能している。
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